ぬいぐるみ

「それで良かったのか？」
「うん、可愛い」

男の眼から見ても目つきの悪い、世辞にも可愛いとは言えない巨大なぬいぐるみを抱えたミカサは満足そうに微笑む。
普通のぬいぐるみの方が良さそうに思えるが本人が良いと言うなら良いのだろう。『女の子の基準は解らん』と思いつつ、何より解せないのはもう１つのぬいぐるみ。
この養い子が強請る事など滅多にないから邪魔だと思いながらも購入したのだが『本当に欲しかったのか？』と疑うほどに、今抱え込んでいるぬいぐるみほど興味を示さない。
“ミカサよ”口を開きかけたところで御満悦な少女が口を開いた。

「そっちはリヴァイの。これでリヴァイは１人で寝れる」

『いやいや、１人で寝れねぇのはお前だろう』何とか言葉を呑み込んでリヴァイは苦笑する。

突然、両親を失い１人になった少女はリヴァイが一緒に寝てやらなければ眠れない。子を持つには早い遠縁の独身男に子供なりに気を遣い、息を潜め涙を噛み殺す気配が…しかし、堪えきれず零れる嗚咽が…隣室にいても嫌というほど感じ取れたあの日。“俺が寂しい。だから一緒に寝ろ”言った言葉を鵜呑みにするほど単純な子供ではない少女。しかし、ミカサは素直にリヴァイのベッドに入った。

「今日から１人じゃねぇのか？」
「リヴァイは寂しがり屋。ので、私でないと駄目。一緒に寝てあげる」

『やれやれ、ぬいぐるみを買った意味ねぇな』ぬいぐるみを抱えたまま定位置に潜り込んだミカサの横にリヴァイも身を横たえる。
『ああ、狭い。仕方ねぇ、次の休みはベッドを買いに行こう』早くも寝息を立て始めた黒い頭に口づけを１つ。少女を抱き込みリヴァイもまた瞼を閉じた。