「・・・久々に何だか分からん落とし物だなあ。」
ここしばらく、大した出入りが無かった。平和と言えば平和ではあったのだが、話題もこれと言ってなかった。ただ、今日はちょっと珍妙な落とし物が転がってた。
「こいつぁ・・・義手・・・か?」
とても重たい鉄の拳。肘に近い所には謎のバーニアが取り付けられているみたいだが、ボロくなって動かなくなっている。・・・その拳が向けられた先には
「今度は剣か・・・。けど、突き刺してねぇんだな。」
見覚えのない剣が転がっている。どけようと触れたら、季節らしい静電気にしてやられる。まさかとは思って剣先から少し歩くと、今度はまた腕だ。形こそ大きく違うが仕掛けは多分同じだと思う。ただ、さっきのとは関節が付いてる。とはいえ、今度は・・・。
「今度は砂鉄まみれだ・・・。どうすっかな・・・。」
砂じゃなくて砂鉄。関節に砂が毛羽立っている感じからして磁石だろう。試しに転がってた鉄拳に投げたらくっ付いた。
「・・・で、今度は・・・あっちか。」
この流れだと碌なのが出てこない気がする。悪戯にしても何だか不愉快だ。奇妙を通り越して気色が悪い。
「・・・なんだこれ?」
棘付きの円盤・・・だな。手裏剣にも見える。何にしても行き止まりにするには随分としょっぱい。とはいえ、円盤じゃあ・・・。そういや、磁力の拳も静電気も何の関係なしとは言い辛いな。まさかと思って、磁力の拳を近づけたら、磁力に反応してか、円盤が凄い速さで飛んで行った。
「えっ・・・は?向き間違えたら死んでたよな?」
飛んで行った先の草木を切刻みながら突き進み、最終的に勢いを失ったのか地面に突き刺さる。
「・・・で今度は剣か。・・・。剣だよな?」
何だか斧と混じった変な形の剣。しかも、さっきの剣と同じように転がってるって事は・・・。
「・・・ヤダなあ。また静電気で痛い思いする奴だ。」
ただ、とりあえず除けなきゃ仕方ない。こんなことならゴム手袋ぐらいすればよかったと後悔しながら触れば再びバチリと指先から稲光。
「・・・で、今度も剣。けど、今度は突き刺さってる」
とはいえ、寒空に刺さってるにしては熱気を帯びている。さらに最初に見た鉄拳がその剣を握りしめてるのも何だか不思議だ。というか・・・地面は焼けてるし、剣も良く見りゃ何だか焼けている。
「こりゃ・・・後回しだな。で、多分鉄拳の向き。」
何処まで宝探しすりゃいいんだ・・・。それに、終わりはまだ遠いだろうというのが目に見えてしまった。
「・・・今度は機関銃?と何だこの赤いの。」
何故此処に来て、銃なんだ?それに、わざわざ御誂えに赤い布が敷かれてる。良くは分からないが、銃の向きがヒントか。・・・いや、何かあるだろ。
「・・・わっざわざ布用意してるのはそういう事か」
布を除けたら馬鹿でかい斧が出てきた。で、まだ先があるのか・・・。いや、これ何処まであるんだ。とはいえ、わらしべ長者ならぬ義手長者になっちまった以上引き返すわけもいかなくなった。それを暗示するように次に出てきたのは鎖の付いた義手。何か変なため息が出てきた。何だか馬鹿にされてる気もするが、まだ先が・・・ん?
「人の声がする?」
こういうときの幻聴は多分、終わりが見えてる奴だ。これで終わりが見えなきゃキツイんだよなあ。そう思いながら歩いた先に置いてあるのはさっきと少しばかり形の違う磁石の腕。流石に仕掛けも無いかと思いながらも拳の示す先にあったのは・・・
「赤いマフラー・・・と、棒、それと刀か。」
・・・我はまつろわぬ霊の王にして、あまねく世界の楔を解き放つ者なり・・・。
我が名は霊帝、全ての剣よ、我の下へ集え・・・。
「霊帝・・・霊帝・・・ねえ。」
何故か思い当たりがあった。多分だが、声の主も分かるぐらい思い当たる。それに・・・あの道標。あれも多分、あのマフラーを手にした今、はっきりと分かってしまった。・・・なるほど。
「此処にあったのはコイツが欲しがった幻か。」
とはいえ・・・ふーむ・・・問題は少ないが、対処しないわけにもなあ・・・。けど、何か引っかかってるのもある。剣というにはバラバラだったし、何より記憶違いじゃなきゃ何か偏っている気がしている。
何か腑に落ちない感じで境内に戻って曲を聴きながらこの話を書こうとしたときに一つだけどうしても聴きたくなった曲があった。
「多分、これだったと思うんだよなあ・・・。」
・・・その曲を聴いた後の話になる。行き詰まって煙草を銜えてたら、さっきの落し物のあった場所から光が空へ向かっていった。そして、あの声が「我はまた現れる・・・。」とだけ伝えて行きやがった。
その代わりに落ちたのは悪魔の羽を模したバッジ。その真中には「Z」と記されていた。
「・・・てめぇ。悪者のフリしてカッコいい事してんじゃねえよ。」
あのマフラー持った時に気付けばよかった。あの道標は声の主自身だった・・・。手元に残ったマフラーとバッジに託された想いはきっと分かる者にだけでも伝わる熱い魂の欠片だろう。
・・・さて、どう飾ろうか・・・。