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2021年8月3日(火)〜2021年10月31日(日) まで開催された「朝日ホラーコミック大賞」の結果を発表します。
「朝日ホラーコミック大賞」では、実体験をもとにした"リアルホラー作品"や、空想上のとびきり怖い話のマンガ作品、マンガ原作作品を募集しました。
審査委員長の伊藤潤二先生(漫画家)をはじめ、波津彬子先生(漫画家)、後藤博幸さん(フジテレビ「ほんとにあった怖い話」シリーズ総合プロデューサー)、馮年さん(東宝株式会社 映像本部 開発チームリーダー)の4名に、それぞれのプロフェッショナルの観点から作品を審査していただきました。
多数の力作の中から、厳正なる審査の結果、受賞の栄冠に輝いた作品を発表します。
審査員の皆さまからの選評もあわせて、ご覧ください。
■HONKOWAホラー大賞(1名)
・賞金10万円
・隔月刊誌「HONKOWA」へ掲載
・朝日新聞出版書籍編集部の担当が付き、連載を検討
「
『羨望の人』 (せんぼうのひと)」 /
ちむら あお(漫画家) さん
●伊藤潤二先生
「HONKOWA」にふさわしい内容で、ストーリーもよくまとまっていると思います。家に代々伝わる迷信により、夫婦が別居婚となっているという導入も興味をそそります。身内の関係も具体的ですし、旦那さんが一度会った人を覚えていないというエピソードもリアリティがあります。
一見華やかに見える相手に嫉妬する心理と、嫉妬される側にもそれなりの苦労があるという、それぞれの立場も世の常を感じさせ内容に深みを与えています。ラストで嫉妬する側があっさりと改心してしまうのがやや肩すかし感がありますが、それも実話ならではのリアリティと捉えることが出来るでしょう。
●波津彬子先生
応募作の中では一番「HONKOWA」らしい作品でした。わかりやすい絵で人物たちの状況の差など一目でわかるのが良いです。ただ構図や画面構成が単調なのでもうひと工夫欲しいですね。お話は作者が友人に聞いた話という描き方のせいもあり、とにかく設定がわかりにくいです。登場人物も多いですし。初めのうちに読者に旧家の事情・登場人物・人間関係を把握させないと面白さも半減します(例えば語りの中の「私の友人のお母さん」「お母さん」「友人の母である和代さん」を「和代さん」に統一するだけで読みやすくなります)。それとエピソードは面白いのに一つ一つバラバラな印象なので、お話の流れを意識して構成してください。
●後藤博幸さん
決め手は “ほんとにあった感”、そしてフィクションではなかなか思いつかないディテールの数々です。
実話にはそのほとんどに起承転結などなく、伏線も全くない状況でいろいろな事象が起きます。例えば「これは私の友人のお母さんのお話です」という人物設定や、“女性は本宅に住み、男性は新宅に住む家族”という舞台設定は複雑でわかりづらく、読んでいてストレスになる部分もありましたが、逆にそこがリアルで実際にあったんだろうなと噛みしめながら読ませていただきました。
野良着しか着たことのない養女の佐代子さんの想いも、私なりにその心情を理解できました。この家に住む女性たちが身に着けているワンピースやミニスカートへの羨望、そしてお茶を出した際に一瞬会っただけで芽生えた恋心。悪気のない女性の嫉妬心がこのような形で現れた霊現象。恐ろしくも悲しいお話でした。
●馮年さん
もしこの話を知り合いから聞いていたら、きっと怖かっただろうなと感じました。ただ、漫画としては少し読みにくさがありました。最後に主人公が霊と対峙する場面がクライマックスで、エモーショナルにしたいのだと思いますが、ここで感情移入できませんでした。キャラクターの掘り下げや展開の見せ方は工夫の余地があると思いますが、「HONKOWA」には相応しい作品だと思います。
■Nemuki+ホラー大賞(1名)
・賞金10万円
・隔月刊誌「Nemuki+」へ掲載
・朝日新聞出版書籍編集部の担当が付き、連載を検討
「
暗い案と」 /
北原順一 さん
●伊藤潤二先生
コメディタッチのホラーで楽しいです。クライアントをテーマに社会でよくあるケースが極端な形で描かれていて、共感する読者も多いかと思います。それに対応する形で進行する悪夢もやはり極端ですが、洒落が効いて笑えます。
ただ、日常の社会生活と夜中の怪異(悪夢?)が最後まで平行して進み、交わることがないので、若干物足りないような気もしました。たとえば物語が進行するに従い、会社でのクライアントとのやりとりに夜の怪異が侵入してきて、恐ろしい(面白い?)相互作用が生じる、というような展開にすると、物語としての統一感が増し、またひと味違った物になるかもと思いました。
●波津彬子先生
怖さと笑いの融合が面白かったです。ふたつの状況をリンクさせてそれぞれエスカレートしていく様子はどうなるんだろうと思わせてページをめくらせますが、ここまで盛り上げているのにオチが物足りなくて残念です。もうひと押し欲しいですね。絵はリアルで硬い感じがかえって可笑しさを出していると思うのですが、とっつきにくい人もいるかも。主人公の見た目にもう少し可愛げ…というか親しみやすさがあると読者も入りやすいです。ここまで描けているのですから次は読者に見やすい画面作りを考えてください。より面白く読めると思います。センスを磨いてくださいね。
●後藤博幸さん
寝ている主人公の上に乗っかり「殺してやる」と発する女性の幽霊らしき存在。
この冒頭に「ストレートな怖いやつが来たぞ」と予想して読み始めましたが、直後、見事に裏切ってくれました。
「殺されるなら猫耳美女がいい」と言う主人公に対し、猫の姿で出てくる幽霊。
「猫すぎるだろ」と突っ込む主人公。ここから始まる二者のボケとツッコミの応酬。
「Nemuki+」ならではのこの感じに完全にやられました。
その背景設定もナイスアイディアだったと思います。言うことをコロコロ変えるクライアントに振り回される主人公と、そんな主人公に振り回される幽霊。挙句の果てに、望んでいるのは「良い感じのやつ」と究極に曖昧な事を言う主人公に対し、ついに幽霊が「考えをまとめてから言え」と突っ込むところは笑いました。
●馮年さん
クライアントへのプレゼンという切り口で、現実と夢がシンクロするアイデアが面白かったです。現実と夢の中で主人公が正反対の立場になり、クライアントの気持ちを分かっていくという展開も素晴らしかったです。オチはもう一つパンチがあるとなお良かったと思います。怖さよりもギャグ感が強く感じられ、大賞に推すのはどうかと悩みましたが、声を出して笑ってしまったので評価したいと思いました。
■朝日ホラーコミック原作賞(1名)
・賞金10万円
・受賞作品を原作としたコミカライズを制作。掲載媒体は作品の内容によって検討します。
「
ずっとずっと一緒にいて◆ホラー」 /
藤よしこ さん
●伊藤潤二先生
火葬場で展開する物語で、おそらく古い構造の火葬場を舞台にしているのかと思います。荼毘に付す瞬間は、葬儀の中でもっとも遺族を悲しませる場面であり、火葬は亡くなった者が息を吹き返してこちらに帰って来るかもしれないという、残された者が抱くかすかな希望を断ち切る無情な風習と言えましょう。それだけに、もし火葬中に死者が息を吹き返したら、という想像はとても恐ろしく、都市伝説化して語られることもうなずけます。そのあたりの恐怖をうまく扱っていると思います。登場人物の設定も巧みで、古い火葬場のイメージとともに不気味な雰囲気を生み出しています。
●波津彬子先生
原作賞は漫画になることが前提なので、どんな漫画家さんが描くかで全然違うものになることを考えると選考は難しかったです。
その中でこの作品は舞台が火葬場、解決していない事件など冒頭で引き込まれますし、ワンシチュエーションものであることが短編として漫画化するにはいいかと思いました。火葬場や骨拾いなどホラー漫画としては描きがいのあるシーンもありますし。ただ最近の火葬場は綺麗で明るくて不穏な音も聞こえない環境になっていますから、漫画化するときはひと時代前の暗さが残る火葬場を演出して欲しいですね。
●後藤博幸さん
全作品の中でたまたま一番最初に読ませていただいたのがこの作品で、ちょっと油断していたせいもあるかもしれませんが、モノを読んでいて久しぶりに背筋がゾッとしました。
まず、火葬場という空間のワンシチュエーション、これは理屈抜きにやられましたね。
「何十年かに一度、炉内から激しく叩きつけるような音が聞こえてくることがあるらしく、作業はそのまま続行し遺族に何も伝えることはない」
この描写がやけにリアルだったんですよ。
ギリギリありそうな感じ、フィクションと現実の狭間にいる危うい感じ、この感じにやられたんだと思います。
所々で遺族たちが発する不気味な言葉やその普通でない表情にも繰り返し、ゾッとしました。物語として、美玖の復讐劇になっているところもよくまとまっていたと思います。
●馮年さん
シチュエーション限定モノのホラー作品には傑作が多いのですが、今回の火葬場という舞台設定も非常に魅力的でした。物語も友情と愛憎を軸にサプライズがあり良かったです。また、火葬炉の金属扉、バーナーの燃焼音、読経の声、遺骨を潰す音、曾祖母の狂気じみた言葉など、小道具の使い方と音の演出が効果的でした。終盤、教師を遺灰に引きずり込む展開とその意味合いが面白かったです。全体的に完成度が高かったと思います。
■HONKOWA部門 優秀賞(2名)
・賞金1万円
「
七畳半の怪部屋~四畳半の禁忌~」 /
小本田絵舞 さん
●馮年さん
読んでいる途中で怖くて鳥肌が立ちました。怖くないと思っていたものが実はとんでもなく怖かったという反転は、サプライズがある分、恐怖が倍増します。多くの人が身近に感じる題材で、非常に短いページ数の中で実話ならではの怖さを詰め込んだ手腕は秀逸でした。このフォーマットは非常に応用が利くと思いますので、個人的にはぜひシリーズにして連載して頂きたいです。
「
あのおじちゃん誰?」 /
水野まどか さん
●後藤博幸さん
普通に「HONKOWA」で掲載されていても違和感のないお話と画力だったと思います。
子供にしか視えないというスタンダードな入口に読みやすさを感じ、2年に一度、水に子供が取られる“オミサキサン”という存在の振りもキャッチーで、その後の展開に期待が持てました。
霊媒師の指示で御札を貼り、なんとか難を逃れようとするも、それが効いているのかどうかわからない感じ、やがて現象も落ち着き油断していたところ、知人の男の子に娘が川に突き落とされる、このあたりにすごく実話感がありました。
その後、娘は運良く助かるも、ちょうど同じ頃近所の子供が海で溺れる。
オミサキサンさんは私を諦めて、守りの弱い他の子供を狙ったのでしょうか……。体験者のこの憶測もリアルだと思いましたし、オチとしてこれが前回の子供の水難事故からちょうど2年目だったというところも伏線回収できており、物語として良かったと思います。
■Nemuki+部門 優秀賞(1名)
・賞金1万円
「
ギョクトサマ」 /
芒(うるみ) さん
●波津彬子先生
お願いと見返り系の怪談と主人公の子供らしい心情が絡んで、よく描けていると思います。絵はキャラクターも親しみやすいし、状況がわかるように背景がきちんと描けていて良いです。ただ前半のギョクトサマの印象が薄いせいかクライマックスの怖さが唐突な感じがしてしまうのは残念です。前半で存在のよくわからないギョクトサマの不気味さをもう少し印象付けると良かったのかな。それと主人公がお願いするところももう少し丁寧に描いて欲しいですね。とりあえずやってみたというのと本気で信じてやったというのでは、後のお話の印象が違ってきます。漫画センスのあるかたなので、次回作に期待します。
■原作部門 優秀賞(2名)
・賞金1万円
「
赤い子」 /
はくらび さん
●波津彬子先生
これは特に漫画化する人のセンスで印象が変わってしまうだろうと思った作品です。都市伝説が少しずつ迫ってくるお話ですが、わりと洗練されている印象。特に書いてないけど舞台は女子校なのかな。白黒で構成されたシックな制服の女子高生たちに不穏な赤い色が広がっていく様はスタイリッシュな絵柄で見たいと思いました。ただ漫画は基本モノクロなので、赤い色を感じさせる画面作りというのは漫画家さんの力量が問われますね。恐ろしや。映像化も面白いかもしれません。
「
塀の外」 /
七星雪 さん
●伊藤潤二先生
原作賞は読み応えのある応募作が多かったです。この作品もよく出来ていると思いました。閉鎖的な村で古くからある風習という、割とよくあるテーマを扱っていますが、その風習が現代になっても無くならない理由について一捻りしてあって面白いと思います。謎のテストが不安を煽る一方で、テストの会場となるのは村一番の高級旅館。おいしい料理も付いて、旅情を誘う対比もうまいと思います。
生け贄選びのためのテストの内容やクライマックスで主人公達が見た物をどう視覚化するかは漫画家の腕の見せ所ですね。
■最終選考 候補作品
【HONKOWA部門】
「
國丸怪奇譚:壱」 /
井之中 國丸【モノパレ】 さん
「
【短篇】満月の人」 /
三鹿灯(サンガトウ) さん
「
ヤモリ」 /
WINSTON さん
【Nemuki+部門】
「
おぞうすい」 /
ミソカチュ さん
「
源流」 /
大萌神LEOlee さん
「
はみ出すぬくみ」 /
いいやま さん
「
狼の家」 /
ハチフン さん
「
祖母の家」 /
カジ さん
【原作部門】
「
見える人」 /
蒼井ハチ さん
「
けっきょくかえってこなかった」 /
鈴木残骸 さん
「
人殺し少年のいる部屋」 /
かめさんぽ@BOOTH通頒中 さん
「
あの子の福笑い」 /
民子ミラ さん
受賞者のみなさんおめでとうございます。
たくさんのご応募、誠にありがとうございました。
◆企画目録
マンガ
原作
◆応募作品一覧ページ
マンガ
原作
◆朝日新聞出版刊行雑誌
HONKOWA
Nemuki+