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この作品「まほうつかいと出会いました」は「ラブライブ!」「ラブライブ!サンシャイン!!」等のタグがつけられた作品です。

にこ誕生日合わせで書き始めたのですが……7/31追記）間に合わなかったので終盤没...

まほうつかいと出会いました

桃桜

2017年7月30日 15:24

にこ誕生日合わせで書き始めたのですが……

7/31追記）間に合わなかったので終盤没になった部分を追加。

a a a

ダイヤ「スクールアイドル出身のプロアイドルと言って誰もが最初に思い浮かべるのはA-RISEでしょう。
彼女たちはデビューから今に至るまでCDチャート1位を逃したことはありません。
ライブ主体のアーティスト路線で音楽番組以外への露出がほとんどないのも特徴ですわね。
そのライブパフォーマンスはアイドルの枠を超えていると言っても過言ではないでしょう」

　週末、土曜日の夜。
　千歌の部屋でダイヤさんが熱弁を振るう。
　合宿では鞠莉さんのいたずらで出来なかったからかその分熱が篭っているというか……
　以前と違って居るのは私とダイヤさん、ルビィちゃんの三人だけ。

ダイヤ「そのA-RISEを覇を競ったμ'sですが……芸能界入りしたのは矢澤にこただ一人。μ'sの圧倒的な知名度もあり華々しい活躍を期待されていましたが、予想に反しその活動は苦戦していました」
千歌「そうなんですか？」

　私がスクールアイドルに興味がなかった頃から名前を知っているくらいだったのに……

ダイヤ「ええ。同時期にデビューしたA-RISEと歌やダンスを比較されてしまい……心無い人からは所詮μ'sの九分の一でしかないと言われることもあったようです。また、所謂『キャラ作り』をバカにされることもあったようです」
ルビィ「そんな逆境を跳ね返したのが『にっこにこラジオ』なんだよ！」
ダイヤ「っ、ルビィ！それはわたくしが説明しようとしていましたのに……」

　二人とも好きな話題だからか若干テンションが高い。
　私が知らなかったことを色々聞けるのは楽しいけど、旅館の神様に怒られないようにしなきゃね。

ダイヤ「……では、改めて。当時レギュラーパーソナリティが病欠となり数回のみの代打として始まったこのラジオ番組でしたが今まで知られていなかったμ'sメンバーの話が出てくることもあり回を追うごとに注目を集めました」
ルビィ「そしてなんと言ってもあのコーナーがあったのが大きいんだよ！」
ダイヤ「ですから！わたくしが説明すると言っているでしょう……『矢澤先輩に聞け！』と言う相談コーナーですわ」
千歌「あ、それ知ってる！今もやってるよね」

　メインのリスナーが中高生であることもあってそのコーナー内でだけ呼び方が『にこにー』ではなく『矢澤先輩』になる、悩み相談のコーナー。
　そのコーナー内では一切『キャラ』を出すことなく真剣に相談に乗ってくれてその頼れる姿から誰が言い出したのか『矢澤パイセン』と言う呼び名もあるとか。

ルビィ「うん。実はルビィ……メールが採用されたことがあるんだぁ」
ダイヤ「なっ、んですって！？一体何時の間に……」
ルビィ「お姉ちゃんがスクールアイドルなんて見たくないって意地張ってる時に」
ダイヤ「黒澤ダイヤ一生の不覚……っ！いえ、どこかにアーカイブがあるはずですわね！探さなくては……」
ルビィ「『昨日までわたくしは断然エリーチカ！とか言ってた姉が急にスクールアイドルを敵視し始めました。どうしたらいいでしょう？』って」
ダイヤ「ぐふっ……」

　あ、ダイヤさんがやられそうだ。

ルビィ「そしたらにこにーが『きっと絵里が賢くないことに気付いてしまったのよ。ポンコツな絵里を受け入れられるようになるまで見守ってあげなさい』って」
ダイヤ「そんなことはありませんわ！かしこいかわいいエリーチカ！」
千歌「あのー……話を戻して欲しいかなーって」

　とりあえず今のダイヤさんはあまりかしこくないと思う。

ダイヤ「……取り乱してしまいました。ともあれ、あまりの人気に数回のみの予定だったその番組は今も続いています」
ルビィ「ルビィも毎週欠かさず聞いてるよ」
千歌「私もスクールアイドル始めてからよく聞いてる」
ダイヤ「そしてA-RISEと違いバラエティなどにも出演することが多く歌やアイドルにさほど興味がない層にも矢澤にこの名前は知れ渡っていると言ってもいいでしょう」
ルビィ「先週のクイズ番組で優勝してたよね」
千歌「そうなの？」

　おバカキャラだと思ってた……

ダイヤ「千歌さんが考えているようにどちらかと言えばおバカキャラ枠で呼ばれることが多いですわね。確かに学力や知識を問うようなクイズでは弱いですが、閃きや思考の柔軟性を問うようなクイズならばむしろ好成績を残しています」
千歌「知能が高いって事……？金田一少年みたいだね」
ダイヤ「もっとも真に賢いのは間違いなくエリーチカですが……」
？「ぬぁわんでよ！！」

　そこで急に襖を開いて現れたのは旅館の神様、ではなく……まほうつかいだった。

にこ「家族で旅行にでも行きたいなーって思います」

　とあるクイズ番組で優勝し、賞金を手にしたにこがインタビューでそう答えたのは先週のことだ。
　その言葉通り、今日は家族旅行。
　まぁママと休みを合わせるのはなかなか大変だったけど……

にこ「……別にもっと有名な観光地とかでも良かったのに」
にこ母「一泊二日だし移動で疲れちゃったら意味がないでしょ？それに人が多い所だとにこが落ち着けないし」

　相変わらずママには敵わない。
　まぁ……

こころ「シーラ！」
ここあ「カンス！」
虎太郎「……うちっちー」

　さっき行ってきた水族館でこころとここあはシーラカンス、虎太郎はマスコットのうちっちーが気に入ったらしくお土産のぬいぐるみを連れ歩いている。
　観光地に行くことが目的なのではなく、みんなが楽しければそれでいい。家族旅行なんだから。

にこ「えーっと、ここが今日の宿ね」

　……なんて読むんだろう。
　忙しさもあって宿の手配はママにやってもらったんだけど『十千万』と言う場所だった。
　玄関に居た犬にびっくりしたりしたけれどそれ以外は落ち着いたなかなかいい旅館だった。
　仕事柄あちこち泊まっているけどプライベートで温泉なんて何時以来だろうか。
　遊び疲れたのかみんな早い時間に寝てしまって久しぶりにママと二人きりで飲むことになり……

にこ母「虎太郎と一緒にお風呂入るのもそろそろ終わりかしらね」

　そう言ったママの少し寂しそうな顔が印象に残った。
　そしてママも寝てしまった後もなんとなく私は眠れずに少し旅館の中を見て回ることにしたんだけど……

『スクールアイドル出身のプロアイドルと言って誰もが最初に思い浮かべるのはA-RISEでしょう』

　少し離れた所からそんな声が聞こえてきた。
　何言ってるのよ、A-RISEじゃなくてこの宇宙ナンバーワンアイドルに決まってるじゃない！
　……なんて思いながら近づいてみる。
　どうやらA-RISEの話は前フリで本命の話はにこのことみたい。
　ふむふむ、なかなか分かってるじゃない……と関心するところもある。
　そうそう、学力じゃなくにこは直感や柔らかい考えでこそ輝くのよ。

『もっとも真に賢いのは間違いなくエリーチカですが……』

　しかし頑なに絵里を推すこの声に、少し酔っていたとは言え思わず反応してしまったのが運の尽き。

にこ「ぬぁんでよ！！」

　想定外の乱入者に一瞬呆けていた三人の少女だったけど黒髪と赤髪の二人がこちらに向き直り……

ダイルビ「「にこにー！？」」
にこ「あー、やっぱばれるわよね……」

　話題にしていた人物がいきなり現れれば驚くのは当然だ。
　髪下ろしてるしメイクもしてないけど。
　しかし、二人の行動はにこの予想を超えたものだった。
　荷物の入っていた鞄からすぐに色紙とペンを取り出しこちらへ差し出す。

ダイヤ「わたくしファンクラブ会員番号0101番黒澤ダイヤと申します！どうかこちらに御一筆お願いいたします！」
ルビィ「同じく0102番黒澤ルビィです！お願いします！」
千歌「……二人ともなんで千歌の部屋に泊まりに来ただけなのに色紙持ち歩いてるの？」
ダイヤ「何時如何なる時であろうとμ'sの方々と会えることを想定して動く……それがスクールアイドルのたしなみですわ」
ルビィ「うんうん」
千歌「そ、そうなんだ……」

　アホ毛の子が呆れる中、にこは少し懐かしい気持ちになる。
　こんなスクールアイドルバカは花陽以来じゃない……！

にこ「……いいわ、普段ならプライベートの時は断ってるんだけど特別よ」
ルビィ「ありがとうございます！」
ダイヤ「黒澤家の家宝として祭らせていただきますわ！」
にこ「あ、うん、それはさすがにやめて」

　サインを終えて（千歌って子にはこの旅館へのサインとして書いてあげた）、ここへ乱入した本来の目的を思い出す。

にこ「絵里が賢いって話だったけど、それは間違いよ！」
ダイヤ「そ、そんなはずはありませんわ！μ's在籍時の全国共通模試の上位欄に絢瀬絵里の名前がありますもの」
にこ「確かに学力は相当なものだったけど……それと賢さは別」
ダイヤ「で、ですが！生徒会長とスクールアイドルを両立するなどクールではありませんか！」
にこ「絵里がクール（笑）」
ダイヤ「は、鼻で笑いましたわね！！」
ルビィ「お、お姉ちゃん、せっかくにこにーに会えたのに喧嘩しちゃダメだよ……」

　妹が取り成してくれてどうにか落ち着くダイヤ。
　相当な絵里推しみたいね……
　真実を語って夢を壊すのも忍びないけどここまできたらもういっそ本当の絵里を好きになってもらう方がいいんじゃ……

にこ「いい？絵里はクールじゃないの、むしろポンコツなのよ」
ダイヤ「そんな……」
にこ「でもあんたは賢いから絵里が好きなの？クールだから絵里が好きなの？そうじゃなかったら嫌いになるの？」
ダイヤ「……いえ、わたくしはどのようなエリーチカであっても応援しております」
にこ「ならいいじゃない。ちなみに内緒だけど絵里は暗闇が怖くて電気を全部消すことが未だにできないのよ」
ダイヤ「なっ……ルビィですら中学生で豆球を消せるようになったと言うのに！」
ルビィ「ピギッ……それは内緒だって言ってたのに！」

　その他にも絵里には悪いけどポンコツエピソードをいくつか話したらお茶目な所も素晴らしいですわ！とすっかり機嫌を直してくれた。
　話しているうちにずいぶん打ち解けることも出来たし……
　
にこ「ところで、あんたたちは確か……Aqoursだったっけ？」
ダイヤ「わたくしたちをご存知だったのですか？」
にこ「一応毎年有望なスクールアイドルはチェックしてるからね」
ルビィ「ル、ルビィたち有望……ですか？」
にこ「なに、にこの見る目を疑うわけ？」
ルビィ「そ、そういうわけじゃないですけど……」
にこ「でさ、聞きたかったんだけど……」

　と、横に居る千歌へと目を向ける。

千歌「な、なんでしょう……？」
にこ「どうして非常口にダッシュしたの？」
千歌「…………勢い、かな？」
にこ「何故疑問系……」

　Aqoursのことを中心に今年のスクールアイドルについて話しているとダイヤとルビィの二人の知識に驚かされる。
　自称・スクールアイドルに詳しい人は大抵μ'sやA-RISEについては詳しいけどその他はそうでもないことが多いのに二人の知識は広い。
　久しぶりにとことん語りたくなってきた。

にこ「千歌、充電器貸して」
千歌「あ、はい」

　スマホを取り出し充電しながらビデオ通話を起動。
　相手はもちろん……

にこ「花陽、今大丈夫？」
花陽『あれ、にこちゃん旅行中じゃなかったっけ……？』
にこ「そうなんだけどね、ちょっと地元のスクールアイドルと知り合って……」
花陽『確か沼津だったっけ……という事は、東海地区代表のAqours！』
にこ「話が早すぎて助かるわ。偶々泊まった旅館がメンバーの実家でね。今ここに三人居るの」

　そこでカメラを三人に向けると……

ダイヤ「ルビィ、気を確かに！」
ルビィ「ははははははははなよちゃんんんんんん！！！！！！！？？」
千歌「み、水持ってくるね！？」

　紅潮し目を回しているルビィをダイヤと千歌が介抱しているのが見えた。

にこ「……とりあえずちょっと待ってて」
花陽『まだダレカタスケテーって言ってないよ、私』

　数分後。
　
ルビィ「だいじょうぶ……ルビィはしょうきにもどったよ」
千歌「それダメなやつだよね！？」
ダイヤ「申し訳ありません。ルビィは花陽さん推しなので興奮してしまったようです」
にこ「……姉妹コント、これは新しいスクールアイドルの形なのかもしれないわね」
花陽『なるほど……勉強になります！』

　その後は全国各地のスクールアイドルについて話し始めるも、千歌だけ知識が追いついてこないのでその都度解説が入ることになる。
　それは悪いことばかりではなく、にこや花陽と違う現役のスクールアイドルの視点と言う点で興味深いものでもあった。

千歌「……それで神田明神でSaintSnowさんと会ったんですけど、妹さんの方がこう、なんだっけ……空中でバーッと宙返りして」
ルビィ「ムーンサルト、です」
千歌「そうそうそれ」
にこ「そりゃまた……凛並みのバネじゃない」
花陽『そうだね、ダンスにおいて全国レベルといってもいいかも』
にこ「ダンスパフォーマンス重視と言うのは二人組、少人数の利点を生かしていると言ってもいいわね」
千歌「……？人数が関係あるんですか？」
ダイヤ「μ'sのパフォーマンスを思い出してみてください。凛さんのような運動能力を持った人が居てもそれを中心にしたダンスはなかったでしょう？」
千歌「そういえば……確かに」
にこ「九人居る場合誰か一人の動きが派手になってもバランスが悪いのよ。例えそれがセンターでもね」
花陽『全員が同じだけ動ければ違うんだろうけど……人数が増えればそれだけ個々の能力に違いが出てくるから難しいんだよね』
ルビィ「その点二人ぐらいなら同じだけ動ける可能性も高いし、バランスも崩れにくいんだよ」
千歌「なるほど……」

　おそらくダンスで魅せるならA-RISEのバランスがベストなんじゃないかと思う。

千歌「……じゃあ少ない方がいいのかな？」
にこ「そんなわけないでしょ。μ'sが何人いたと思ってんのよ」
千歌「あ、そっか」
ダイヤ「Aqoursに全員果南さんの体力と曜さんの運動能力があればダンス特化グループとして活動してもいいのでしょうが……」
ルビィ「死んじゃうよ……」
花陽『それに人数が少なければ作詞作曲、衣装、振り付けを分担することも出来ず一人当たりの負担はかなりのものになるから……』
にこ「だからといって多ければいいってものでもない。μ's以降九人グループが一時期増えたけど一年も経つとほとんど見なくなった……どうしてか分かる？」
千歌「さっき言ってたバランスの問題、とか？」
ダイヤ「それもありますが……一番は情熱の差でしょうか。μ'sに憧れて九人集めたグループは相当な数でしたが、その憧れだけでは長続きすることはありません」
にこ「そう。人数が多いほどその差は無視できなくなる。九人みんなが本気の情熱を持っているなんてそれこそ奇跡みたいなものよ」

　情熱、あるいはやる気と言ってもいいけど……その差、違いがあればにこの一年の時のようなことになりかねない。
　ほんの二、三人であってもあっさりばらばらになってしまうんだから。

千歌「……簡単に奇跡だよ！って言ってたけどAqoursってすごいんだね」
ルビィ「うん、九人になったのは偶然だけど」
花陽『あれ、そうだったんだ……』
ルビィ「μ'sに憧れてはいましたけど意図して人数を揃えたわけじゃない……よね？」
ダイヤ「そうですわね。それにわたくしたちはもう憧れているだけのつもりもありません」
にこ「……言ってくれるじゃない」

　昨今のスクールアイドルはラブライブ含め上手さを求める傾向がある。
　上手くなければ、すごくなければ票が入らないから、それも一つの側面としては正しいのだろう。
　そんな中でAqoursは『輝きたい』と言っていた。
　『一緒に輝こう』、とも。

にこ「それなら見せてちょうだい。あんたたちの輝きでみんなを笑顔にするところをね」
千歌「はい！……でもすごいプレッシャーかも」
にこ「仕方ないわねー……特別に魔法をかけてあげるわ」
千歌「魔法……？」
にこ「そう、みんなを笑顔にする魔法。あんたたちもみんなと一緒に輝こうって言うならみんなも、自分たちも笑顔に出来なきゃダメよ」

　花陽とダイヤ、ルビィはもう分かっているのかもう指をあの形にしていた。

にこ「にっこにっこにー！」
ダイルビぱな「「『にっこにっこにー！』」」
千歌「に、にっこにっこにー！」

　……その後も日付が変わろうかと言うくらいまでおしゃべりを続けた。

花陽『あ、明日凛ちゃんと出かける約束があるからさすがにそろそろ寝なきゃ……』
にこ「いきなり呼び出して悪かったわね」
花陽『ううん、みんなと話せて楽しかったよ。……ルビィちゃん』
ルビィ「は、はいっ」
花陽『本戦頑張ってね。応援してるから』
ルビィ「……はい！がんばルビィ！」

　既に持ちネタがあるとは……やるじゃない。

花陽『にこちゃんはもう水着用意できた？』
にこ「ああ、真姫ちゃんの別荘に集まる時の準備ってことね。この前グラビア撮影した時に着たの貰ったから大丈夫よ」
ダイルビぱな「「『えっ』」」
にこ「……あによ」
花陽『にこちゃんに水着グラビアの仕事があるなんて……とか思ってないよ？』
ダイヤ「もちろんですわ」
ルビィ「うんうん」
にこ「言ってるようなもんでしょーが……まったく。花陽は別に普段から泳いでるわけでもないでしょうに買い換えるわけ？」
花陽『うん、去年買ったのは胸がきつくな』
にこ「あーっ、手が滑ったにこー！」

　『偶然』滑った手がスマホに触れて通話が終了してしまった。
　ダイヤを見て……ルビィを見て……この二人はどっちかと言うと仲間ね。
　千歌は……

にこ「それ以上成長したら敵とみなすわよ」
千歌「いきなり何！？」

　花陽が寝ちゃった（ことにする）しそろそろこっちも解散する頃合かなって思ったんだけど。
　ダイヤとルビィの視線がまだまだ熱いし……

にこ「ここカラオケある？」
千歌「えと、宴会場になら……」
にこ「よーし、じゃあ今から朝までにこにーライブよ！最後まで付いてきなさい！」
ダイヤ「にこにーの生歌を聞けるなんて……！」
ルビィ「千歌さん、これどうぞ」
千歌「……いや、どうして当然のようにラブライブレード持ち歩いてるの？」
ダイヤ「いつ如何なる時であろうとμ'sの方々と会えることを想定して動く……それがスクールアイドルのたしなみですわ」
千歌「私たちが見てるスクールアイドルって本当に同じものなのかな……？」

　ダイヤとルビィのスクールアイドルバカ振りに付いてこれない千歌はまだまだのようね。
　襖を開けて宴会場の方へ向かおうとすると目の前に二つの人影が。

美渡「…………」
にこ母「…………」

　怖い目をして仁王立ちしていた。
　あれ、ひょっとしてやばい？

千歌「りょ、旅館の神様……」
美渡「騒がしすぎるんだけど」
千歌「それは、その……憧れの人が来たのでつい……」
美渡「ダイヤちゃんが付いてるから大丈夫かと思っててけどまさか一緒になって騒いでるとは……」
ダイヤ「申し訳ございません！」

　どうやら千歌の姉らしい。
　つまり旅館の人ってことよね……さすがにちょっとうるさくし過ぎたか。
　まぁともあれまずは目の前のママの視線からどう逃れるか考えないと……

にこ母「酔って他の人を巻き込んで騒ぐなんて……」
にこ「違うのよママ！これはファンとの交流……そう、ファンサービスの一環でー……」
ルビィ「……ママ」
にこ「あ、ちょっ、あんたたちこれは内緒だからね！？」
にこ母「にこ！」
にこ「ご、ごめんなさい！」

　こうして、一夜限りのまほうつかいとの邂逅は締まらない最後を迎えた。
　そして翌日早朝、淡島神社まで三人でジョギング……したらダイヤさんだけ遅れて途中で見えなくなっちゃったけど。
　階段を上りきったらそこには。

千歌「果南ちゃん！おはよう！」
ルビィ「はぁ、はぁ……おはようございます」
果南「おはよ、千歌、ルビィ」

　身体を軽く動かしながらクールダウンしていた果南ちゃんと。

鞠莉「…………（へんじがない。ただのびしょうじょのようだ）」

　地面に倒れこんでいる鞠莉さんの姿があった。
　一体何が……？

果南「鞠莉が私と同じペースで上ってみせるって無茶言ってね。着いたらダウンしたんだよ」

　それは……自殺行為だ。
　曜ちゃんでもギリギリなのに。

果南「そっちこそ、ダイヤは？一緒じゃないの？」
ルビィ「ちょっと遅れてて……そろそろ来ると思うんですけど」
果南「ルビィより体力がないなんて……ダイヤは前より体力落ちてるんじゃないかな」
鞠莉「……デスクワークが……多いから……ね……」
千歌「無理して喋らなくても……水飲む？」
鞠莉「ソーリー……少し貰うわ……」
果南「……そんなに飛ばした覚えないんだけどなぁ」

　あれで普通だって言うならそれこそ昨日言ったみたいにAqoursはダンス特化グループになっちゃうよ。
　と、そこでようやくダイヤさんが近づいてきた。

ダイヤ「ぜぇ、ぜぇ……」
ルビィ「お姉ちゃん、あと少しだよ！」
果南「……ん？ダイヤ今日は髪形が」
鞠莉「……？っぶはぁ！？」
　
　……上りきったダイヤさんを見て鞠莉さんが飲んでいた水を噴出しそれが果南ちゃんの顔面に直撃する。

果南「…………」
鞠莉「だ、ダイヤ、それ……くくっ……」
ダイヤ「はぁ、はぁ……にこにーリスペクトですわ！」

　そう、今日のダイヤさんは昨日のにこさんの影響かツインテールだった。
　いや、似合わないことはないよ？
　可愛いと思うんだけど、普段とのギャップと言うか、ね……
　
鞠莉「（アイドルとして出してはいけないおっさんみたいな笑い声）！！！！」
ダイヤ「な、なんですか！？何故笑うんです！？」
果南「まず私に謝ってよ……」
千歌「……鞠莉さんをとびっきりの笑顔にはしてるよね」
ルビィ「……そうだね。笑顔のまほうだよね」

　なんて言うかまぁ、それだけ私とダイヤさん、ルビィちゃんに大きな影響を与えた出会いだったんだって思う。
　大好きな花陽さんに応援してもらったルビィちゃんもやる気に満ちているし……
　私は本戦出場者の自己紹介動画で何を言うか少し悩んでいたんだけど……かけてもらった笑顔のまほうのおかげでいいフレーズが思いついたんだ！

千歌『太陽みたいに輝く笑顔で、みんなにハッピーを届けるよ！』

　なによ、輝きと笑顔両方使っただけじゃない。
　まぁそんな素直な所は千歌らしいと言えるけど。
　真姫ちゃんの海沿いの別荘に久しぶりに集まった日の夜、夕涼みがてら動画を見ていると花陽が近づいてきた。

花陽「あ、Aqoursの自己紹介動画見てるの？」
にこ「まぁね。にこが魔法をかけたんだから出来を確認しないといけないし」
花陽「素直に応援してるって言えばいいのに……」
にこ「応援はしてるけどね。結果を出せるかは千歌たち自身の問題だし……」

　花陽はそこで言うべきか悩むように少し躊躇いを見せたけど……やがて意を決し口を開いた。

花陽「……話していた時は気付かなかったけどAqoursっていう名前、ダイヤちゃんをどこかで見たなって思って」
にこ「二年前のイベントの話でしょ？歌えなかったやつ」
花陽「気付いてたんだ」
にこ「当然。……でも別にいいじゃない、そんなこと」

　ダイヤと、話してはいないけど残りの三年生……
　二年前何があって歌えなかったのか、そして復帰することになったのかわからないけど。
　復帰してからの三曲を見ているだけで……

にこ「大事なのは『今』でしょ？こんな楽しそうにスクールアイドルしてるんだから、それで十分よ」
花陽「『いま』が最高、だね」

　Aqoursがどれだけ輝けるか……楽しみね。

絵里「にこ、花陽。凛がそろそろ花火やらないかって言ってるんだけど……と、スクールアイドルの話？」
にこ「そうよ、『わたくしは断然エリーチカ！』って絵里が大好きな子がいるグループ」
絵里「そんな言い方されたら気になるじゃない。後で私にも教えてよ？」

　どうやら今日も、夜更かしすることになりそうだ……

週末、土曜日の夜。
　千歌の部屋でダイヤさんが熱弁を振るう。
　合宿では鞠莉さんのいたずらで出来なかったからかその分熱が篭っているというか……
　以前と違って居るのは私とダイヤさん、ルビィちゃんの三人だけ。

ダイヤ「そのA-RISEを覇を競ったμ'sですが……芸能界入りしたのは矢澤にこただ一人。μ'sの圧倒的な知名度もあり華々しい活躍を期待されていましたが、予想に反しその活動は苦戦していました」
千歌「そうなんですか？」

私がスクールアイドルに興味がなかった頃から名前を知っているくらいだったのに……

ダイヤ「ええ。同時期にデビューしたA-RISEと歌やダンスを比較されてしまい……心無い人からは所詮μ'sの九分の一でしかないと言われることもあったようです。また、所謂『キャラ作り』をバカにされることもあったようです」
ルビィ「そんな逆境を跳ね返したのが『にっこにこラジオ』なんだよ！」
ダイヤ「っ、ルビィ！それはわたくしが説明しようとしていましたのに……」

二人とも好きな話題だからか若干テンションが高い。
　私が知らなかったことを色々聞けるのは楽しいけど、旅館の神様に怒られないようにしなきゃね。

ダイヤ「……では、改めて。当時レギュラーパーソナリティが病欠となり数回のみの代打として始まったこのラジオ番組でしたが今まで知られていなかったμ'sメンバーの話が出てくることもあり回を追うごとに注目を集めました」
ルビィ「そしてなんと言ってもあのコーナーがあったのが大きいんだよ！」
ダイヤ「ですから！わたくしが説明すると言っているでしょう……『矢澤先輩に聞け！』と言う相談コーナーですわ」
千歌「あ、それ知ってる！今もやってるよね」

メインのリスナーが中高生であることもあってそのコーナー内でだけ呼び方が『にこにー』ではなく『矢澤先輩』になる、悩み相談のコーナー。
　そのコーナー内では一切『キャラ』を出すことなく真剣に相談に乗ってくれてその頼れる姿から誰が言い出したのか『矢澤パイセン』と言う呼び名もあるとか。

ルビィ「うん。実はルビィ……メールが採用されたことがあるんだぁ」
ダイヤ「なっ、んですって！？一体何時の間に……」
ルビィ「お姉ちゃんがスクールアイドルなんて見たくないって意地張ってる時に」
ダイヤ「黒澤ダイヤ一生の不覚……っ！いえ、どこかにアーカイブがあるはずですわね！探さなくては……」
ルビィ「『昨日までわたくしは断然エリーチカ！とか言ってた姉が急にスクールアイドルを敵視し始めました。どうしたらいいでしょう？』って」
ダイヤ「ぐふっ……」

あ、ダイヤさんがやられそうだ。

ルビィ「そしたらにこにーが『きっと絵里が賢くないことに気付いてしまったのよ。ポンコツな絵里を受け入れられるようになるまで見守ってあげなさい』って」
ダイヤ「そんなことはありませんわ！かしこいかわいいエリーチカ！」
千歌「あのー……話を戻して欲しいかなーって」

とりあえず今のダイヤさんはあまりかしこくないと思う。

ダイヤ「……取り乱してしまいました。ともあれ、あまりの人気に数回のみの予定だったその番組は今も続いています」
ルビィ「ルビィも毎週欠かさず聞いてるよ」
千歌「私もスクールアイドル始めてからよく聞いてる」
ダイヤ「そしてA-RISEと違いバラエティなどにも出演することが多く歌やアイドルにさほど興味がない層にも矢澤にこの名前は知れ渡っていると言ってもいいでしょう」
ルビィ「先週のクイズ番組で優勝してたよね」
千歌「そうなの？」

おバカキャラだと思ってた……

ダイヤ「千歌さんが考えているようにどちらかと言えばおバカキャラ枠で呼ばれることが多いですわね。確かに学力や知識を問うようなクイズでは弱いですが、閃きや思考の柔軟性を問うようなクイズならばむしろ好成績を残しています」
千歌「知能が高いって事……？金田一少年みたいだね」
ダイヤ「もっとも真に賢いのは間違いなくエリーチカですが……」
？「ぬぁわんでよ！！」

そこで急に襖を開いて現れたのは旅館の神様、ではなく……まほうつかいだった。

にこ「家族で旅行にでも行きたいなーって思います」

とあるクイズ番組で優勝し、賞金を手にしたにこがインタビューでそう答えたのは先週のことだ。
　その言葉通り、今日は家族旅行。
　まぁママと休みを合わせるのはなかなか大変だったけど……

にこ「……別にもっと有名な観光地とかでも良かったのに」
にこ母「一泊二日だし移動で疲れちゃったら意味がないでしょ？それに人が多い所だとにこが落ち着けないし」

相変わらずママには敵わない。
　まぁ……

こころ「シーラ！」
ここあ「カンス！」
虎太郎「……うちっちー」

さっき行ってきた水族館でこころとここあはシーラカンス、虎太郎はマスコットのうちっちーが気に入ったらしくお土産のぬいぐるみを連れ歩いている。
　観光地に行くことが目的なのではなく、みんなが楽しければそれでいい。家族旅行なんだから。

にこ「えーっと、ここが今日の宿ね」

……なんて読むんだろう。
　忙しさもあって宿の手配はママにやってもらったんだけど『十千万』と言う場所だった。
　玄関に居た犬にびっくりしたりしたけれどそれ以外は落ち着いたなかなかいい旅館だった。
　仕事柄あちこち泊まっているけどプライベートで温泉なんて何時以来だろうか。
　遊び疲れたのかみんな早い時間に寝てしまって久しぶりにママと二人きりで飲むことになり……

にこ母「虎太郎と一緒にお風呂入るのもそろそろ終わりかしらね」

そう言ったママの少し寂しそうな顔が印象に残った。
　そしてママも寝てしまった後もなんとなく私は眠れずに少し旅館の中を見て回ることにしたんだけど……

『スクールアイドル出身のプロアイドルと言って誰もが最初に思い浮かべるのはA-RISEでしょう』

少し離れた所からそんな声が聞こえてきた。
　何言ってるのよ、A-RISEじゃなくてこの宇宙ナンバーワンアイドルに決まってるじゃない！
　……なんて思いながら近づいてみる。
　どうやらA-RISEの話は前フリで本命の話はにこのことみたい。
　ふむふむ、なかなか分かってるじゃない……と関心するところもある。
　そうそう、学力じゃなくにこは直感や柔らかい考えでこそ輝くのよ。

『もっとも真に賢いのは間違いなくエリーチカですが……』

しかし頑なに絵里を推すこの声に、少し酔っていたとは言え思わず反応してしまったのが運の尽き。

にこ「ぬぁんでよ！！」

想定外の乱入者に一瞬呆けていた三人の少女だったけど黒髪と赤髪の二人がこちらに向き直り……

ダイルビ「「にこにー！？」」
にこ「あー、やっぱばれるわよね……」

話題にしていた人物がいきなり現れれば驚くのは当然だ。
　髪下ろしてるしメイクもしてないけど。
　しかし、二人の行動はにこの予想を超えたものだった。
　荷物の入っていた鞄からすぐに色紙とペンを取り出しこちらへ差し出す。

ダイヤ「わたくしファンクラブ会員番号0101番黒澤ダイヤと申します！どうかこちらに御一筆お願いいたします！」
ルビィ「同じく0102番黒澤ルビィです！お願いします！」
千歌「……二人ともなんで千歌の部屋に泊まりに来ただけなのに色紙持ち歩いてるの？」
ダイヤ「何時如何なる時であろうとμ'sの方々と会えることを想定して動く……それがスクールアイドルのたしなみですわ」
ルビィ「うんうん」
千歌「そ、そうなんだ……」

アホ毛の子が呆れる中、にこは少し懐かしい気持ちになる。
　こんなスクールアイドルバカは花陽以来じゃない……！

にこ「……いいわ、普段ならプライベートの時は断ってるんだけど特別よ」
ルビィ「ありがとうございます！」
ダイヤ「黒澤家の家宝として祭らせていただきますわ！」
にこ「あ、うん、それはさすがにやめて」

サインを終えて（千歌って子にはこの旅館へのサインとして書いてあげた）、ここへ乱入した本来の目的を思い出す。

にこ「絵里が賢いって話だったけど、それは間違いよ！」
ダイヤ「そ、そんなはずはありませんわ！μ's在籍時の全国共通模試の上位欄に絢瀬絵里の名前がありますもの」
にこ「確かに学力は相当なものだったけど……それと賢さは別」
ダイヤ「で、ですが！生徒会長とスクールアイドルを両立するなどクールではありませんか！」
にこ「絵里がクール（笑）」
ダイヤ「は、鼻で笑いましたわね！！」
ルビィ「お、お姉ちゃん、せっかくにこにーに会えたのに喧嘩しちゃダメだよ……」

妹が取り成してくれてどうにか落ち着くダイヤ。
　相当な絵里推しみたいね……
　真実を語って夢を壊すのも忍びないけどここまできたらもういっそ本当の絵里を好きになってもらう方がいいんじゃ……

にこ「いい？絵里はクールじゃないの、むしろポンコツなのよ」
ダイヤ「そんな……」
にこ「でもあんたは賢いから絵里が好きなの？クールだから絵里が好きなの？そうじゃなかったら嫌いになるの？」
ダイヤ「……いえ、わたくしはどのようなエリーチカであっても応援しております」
にこ「ならいいじゃない。ちなみに内緒だけど絵里は暗闇が怖くて電気を全部消すことが未だにできないのよ」
ダイヤ「なっ……ルビィですら中学生で豆球を消せるようになったと言うのに！」
ルビィ「ピギッ……それは内緒だって言ってたのに！」

その他にも絵里には悪いけどポンコツエピソードをいくつか話したらお茶目な所も素晴らしいですわ！とすっかり機嫌を直してくれた。
　話しているうちにずいぶん打ち解けることも出来たし……
　
にこ「ところで、あんたたちは確か……Aqoursだったっけ？」
ダイヤ「わたくしたちをご存知だったのですか？」
にこ「一応毎年有望なスクールアイドルはチェックしてるからね」
ルビィ「ル、ルビィたち有望……ですか？」
にこ「なに、にこの見る目を疑うわけ？」
ルビィ「そ、そういうわけじゃないですけど……」
にこ「でさ、聞きたかったんだけど……」

と、横に居る千歌へと目を向ける。

千歌「な、なんでしょう……？」
にこ「どうして非常口にダッシュしたの？」
千歌「…………勢い、かな？」
にこ「何故疑問系……」

Aqoursのことを中心に今年のスクールアイドルについて話しているとダイヤとルビィの二人の知識に驚かされる。
　自称・スクールアイドルに詳しい人は大抵μ'sやA-RISEについては詳しいけどその他はそうでもないことが多いのに二人の知識は広い。
　久しぶりにとことん語りたくなってきた。

にこ「千歌、充電器貸して」
千歌「あ、はい」

スマホを取り出し充電しながらビデオ通話を起動。
　相手はもちろん……

にこ「花陽、今大丈夫？」
花陽『あれ、にこちゃん旅行中じゃなかったっけ……？』
にこ「そうなんだけどね、ちょっと地元のスクールアイドルと知り合って……」
花陽『確か沼津だったっけ……という事は、東海地区代表のAqours！』
にこ「話が早すぎて助かるわ。偶々泊まった旅館がメンバーの実家でね。今ここに三人居るの」

そこでカメラを三人に向けると……

ダイヤ「ルビィ、気を確かに！」
ルビィ「ははははははははなよちゃんんんんんん！！！！！！！？？」
千歌「み、水持ってくるね！？」

紅潮し目を回しているルビィをダイヤと千歌が介抱しているのが見えた。

にこ「……とりあえずちょっと待ってて」
花陽『まだダレカタスケテーって言ってないよ、私』

数分後。
　
ルビィ「だいじょうぶ……ルビィはしょうきにもどったよ」
千歌「それダメなやつだよね！？」
ダイヤ「申し訳ありません。ルビィは花陽さん推しなので興奮してしまったようです」
にこ「……姉妹コント、これは新しいスクールアイドルの形なのかもしれないわね」
花陽『なるほど……勉強になります！』

その後は全国各地のスクールアイドルについて話し始めるも、千歌だけ知識が追いついてこないのでその都度解説が入ることになる。
　それは悪いことばかりではなく、にこや花陽と違う現役のスクールアイドルの視点と言う点で興味深いものでもあった。

千歌「……それで神田明神でSaintSnowさんと会ったんですけど、妹さんの方がこう、なんだっけ……空中でバーッと宙返りして」
ルビィ「ムーンサルト、です」
千歌「そうそうそれ」
にこ「そりゃまた……凛並みのバネじゃない」
花陽『そうだね、ダンスにおいて全国レベルといってもいいかも』
にこ「ダンスパフォーマンス重視と言うのは二人組、少人数の利点を生かしていると言ってもいいわね」
千歌「……？人数が関係あるんですか？」
ダイヤ「μ'sのパフォーマンスを思い出してみてください。凛さんのような運動能力を持った人が居てもそれを中心にしたダンスはなかったでしょう？」
千歌「そういえば……確かに」
にこ「九人居る場合誰か一人の動きが派手になってもバランスが悪いのよ。例えそれがセンターでもね」
花陽『全員が同じだけ動ければ違うんだろうけど……人数が増えればそれだけ個々の能力に違いが出てくるから難しいんだよね』
ルビィ「その点二人ぐらいなら同じだけ動ける可能性も高いし、バランスも崩れにくいんだよ」
千歌「なるほど……」

おそらくダンスで魅せるならA-RISEのバランスがベストなんじゃないかと思う。

千歌「……じゃあ少ない方がいいのかな？」
にこ「そんなわけないでしょ。μ'sが何人いたと思ってんのよ」
千歌「あ、そっか」
ダイヤ「Aqoursに全員果南さんの体力と曜さんの運動能力があればダンス特化グループとして活動してもいいのでしょうが……」
ルビィ「死んじゃうよ……」
花陽『それに人数が少なければ作詞作曲、衣装、振り付けを分担することも出来ず一人当たりの負担はかなりのものになるから……』
にこ「だからといって多ければいいってものでもない。μ's以降九人グループが一時期増えたけど一年も経つとほとんど見なくなった……どうしてか分かる？」
千歌「さっき言ってたバランスの問題、とか？」
ダイヤ「それもありますが……一番は情熱の差でしょうか。μ'sに憧れて九人集めたグループは相当な数でしたが、その憧れだけでは長続きすることはありません」
にこ「そう。人数が多いほどその差は無視できなくなる。九人みんなが本気の情熱を持っているなんてそれこそ奇跡みたいなものよ」

情熱、あるいはやる気と言ってもいいけど……その差、違いがあればにこの一年の時のようなことになりかねない。
　ほんの二、三人であってもあっさりばらばらになってしまうんだから。

千歌「……簡単に奇跡だよ！って言ってたけどAqoursってすごいんだね」
ルビィ「うん、九人になったのは偶然だけど」
花陽『あれ、そうだったんだ……』
ルビィ「μ'sに憧れてはいましたけど意図して人数を揃えたわけじゃない……よね？」
ダイヤ「そうですわね。それにわたくしたちはもう憧れているだけのつもりもありません」
にこ「……言ってくれるじゃない」

昨今のスクールアイドルはラブライブ含め上手さを求める傾向がある。
　上手くなければ、すごくなければ票が入らないから、それも一つの側面としては正しいのだろう。
　そんな中でAqoursは『輝きたい』と言っていた。
　『一緒に輝こう』、とも。

にこ「それなら見せてちょうだい。あんたたちの輝きでみんなを笑顔にするところをね」
千歌「はい！……でもすごいプレッシャーかも」
にこ「仕方ないわねー……特別に魔法をかけてあげるわ」
千歌「魔法……？」
にこ「そう、みんなを笑顔にする魔法。あんたたちもみんなと一緒に輝こうって言うならみんなも、自分たちも笑顔に出来なきゃダメよ」

花陽とダイヤ、ルビィはもう分かっているのかもう指をあの形にしていた。

にこ「にっこにっこにー！」
ダイルビぱな「「『にっこにっこにー！』」」
千歌「に、にっこにっこにー！」

……その後も日付が変わろうかと言うくらいまでおしゃべりを続けた。

花陽『あ、明日凛ちゃんと出かける約束があるからさすがにそろそろ寝なきゃ……』
にこ「いきなり呼び出して悪かったわね」
花陽『ううん、みんなと話せて楽しかったよ。……ルビィちゃん』
ルビィ「は、はいっ」
花陽『本戦頑張ってね。応援してるから』
ルビィ「……はい！がんばルビィ！」

既に持ちネタがあるとは……やるじゃない。

花陽『にこちゃんはもう水着用意できた？』
にこ「ああ、真姫ちゃんの別荘に集まる時の準備ってことね。この前グラビア撮影した時に着たの貰ったから大丈夫よ」
ダイルビぱな「「『えっ』」」
にこ「……あによ」
花陽『にこちゃんに水着グラビアの仕事があるなんて……とか思ってないよ？』
ダイヤ「もちろんですわ」
ルビィ「うんうん」
にこ「言ってるようなもんでしょーが……まったく。花陽は別に普段から泳いでるわけでもないでしょうに買い換えるわけ？」
花陽『うん、去年買ったのは胸がきつくな』
にこ「あーっ、手が滑ったにこー！」

『偶然』滑った手がスマホに触れて通話が終了してしまった。
　ダイヤを見て……ルビィを見て……この二人はどっちかと言うと仲間ね。
　千歌は……

にこ「それ以上成長したら敵とみなすわよ」
千歌「いきなり何！？」

花陽が寝ちゃった（ことにする）しそろそろこっちも解散する頃合かなって思ったんだけど。
　ダイヤとルビィの視線がまだまだ熱いし……

にこ「ここカラオケある？」
千歌「えと、宴会場になら……」
にこ「よーし、じゃあ今から朝までにこにーライブよ！最後まで付いてきなさい！」
ダイヤ「にこにーの生歌を聞けるなんて……！」
ルビィ「千歌さん、これどうぞ」
千歌「……いや、どうして当然のようにラブライブレード持ち歩いてるの？」
ダイヤ「いつ如何なる時であろうとμ'sの方々と会えることを想定して動く……それがスクールアイドルのたしなみですわ」
千歌「私たちが見てるスクールアイドルって本当に同じものなのかな……？」

ダイヤとルビィのスクールアイドルバカ振りに付いてこれない千歌はまだまだのようね。
　襖を開けて宴会場の方へ向かおうとすると目の前に二つの人影が。

美渡「…………」
にこ母「…………」

怖い目をして仁王立ちしていた。
　あれ、ひょっとしてやばい？

千歌「りょ、旅館の神様……」
美渡「騒がしすぎるんだけど」
千歌「それは、その……憧れの人が来たのでつい……」
美渡「ダイヤちゃんが付いてるから大丈夫かと思っててけどまさか一緒になって騒いでるとは……」
ダイヤ「申し訳ございません！」

どうやら千歌の姉らしい。
　つまり旅館の人ってことよね……さすがにちょっとうるさくし過ぎたか。
　まぁともあれまずは目の前のママの視線からどう逃れるか考えないと……

にこ母「酔って他の人を巻き込んで騒ぐなんて……」
にこ「違うのよママ！これはファンとの交流……そう、ファンサービスの一環でー……」
ルビィ「……ママ」
にこ「あ、ちょっ、あんたたちこれは内緒だからね！？」
にこ母「にこ！」
にこ「ご、ごめんなさい！」

こうして、一夜限りのまほうつかいとの邂逅は締まらない最後を迎えた。
　そして翌日早朝、淡島神社まで三人でジョギング……したらダイヤさんだけ遅れて途中で見えなくなっちゃったけど。
　階段を上りきったらそこには。

千歌「果南ちゃん！おはよう！」
ルビィ「はぁ、はぁ……おはようございます」
果南「おはよ、千歌、ルビィ」

身体を軽く動かしながらクールダウンしていた果南ちゃんと。

鞠莉「…………（へんじがない。ただのびしょうじょのようだ）」

地面に倒れこんでいる鞠莉さんの姿があった。
　一体何が……？

果南「鞠莉が私と同じペースで上ってみせるって無茶言ってね。着いたらダウンしたんだよ」

それは……自殺行為だ。
　曜ちゃんでもギリギリなのに。

果南「そっちこそ、ダイヤは？一緒じゃないの？」
ルビィ「ちょっと遅れてて……そろそろ来ると思うんですけど」
果南「ルビィより体力がないなんて……ダイヤは前より体力落ちてるんじゃないかな」
鞠莉「……デスクワークが……多いから……ね……」
千歌「無理して喋らなくても……水飲む？」
鞠莉「ソーリー……少し貰うわ……」
果南「……そんなに飛ばした覚えないんだけどなぁ」

あれで普通だって言うならそれこそ昨日言ったみたいにAqoursはダンス特化グループになっちゃうよ。
　と、そこでようやくダイヤさんが近づいてきた。

ダイヤ「ぜぇ、ぜぇ……」
ルビィ「お姉ちゃん、あと少しだよ！」
果南「……ん？ダイヤ今日は髪形が」
鞠莉「……？っぶはぁ！？」
　
　……上りきったダイヤさんを見て鞠莉さんが飲んでいた水を噴出しそれが果南ちゃんの顔面に直撃する。

果南「…………」
鞠莉「だ、ダイヤ、それ……くくっ……」
ダイヤ「はぁ、はぁ……にこにーリスペクトですわ！」

そう、今日のダイヤさんは昨日のにこさんの影響かツインテールだった。
　いや、似合わないことはないよ？
　可愛いと思うんだけど、普段とのギャップと言うか、ね……
　
鞠莉「（アイドルとして出してはいけないおっさんみたいな笑い声）！！！！」
ダイヤ「な、なんですか！？何故笑うんです！？」
果南「まず私に謝ってよ……」
千歌「……鞠莉さんをとびっきりの笑顔にはしてるよね」
ルビィ「……そうだね。笑顔のまほうだよね」

なんて言うかまぁ、それだけ私とダイヤさん、ルビィちゃんに大きな影響を与えた出会いだったんだって思う。
　大好きな花陽さんに応援してもらったルビィちゃんもやる気に満ちているし……
　私は本戦出場者の自己紹介動画で何を言うか少し悩んでいたんだけど……かけてもらった笑顔のまほうのおかげでいいフレーズが思いついたんだ！

千歌『太陽みたいに輝く笑顔で、みんなにハッピーを届けるよ！』

なによ、輝きと笑顔両方使っただけじゃない。
　まぁそんな素直な所は千歌らしいと言えるけど。
　真姫ちゃんの海沿いの別荘に久しぶりに集まった日の夜、夕涼みがてら動画を見ていると花陽が近づいてきた。

花陽「あ、Aqoursの自己紹介動画見てるの？」
にこ「まぁね。にこが魔法をかけたんだから出来を確認しないといけないし」
花陽「素直に応援してるって言えばいいのに……」
にこ「応援はしてるけどね。結果を出せるかは千歌たち自身の問題だし……」

花陽はそこで言うべきか悩むように少し躊躇いを見せたけど……やがて意を決し口を開いた。

花陽「……話していた時は気付かなかったけどAqoursっていう名前、ダイヤちゃんをどこかで見たなって思って」
にこ「二年前のイベントの話でしょ？歌えなかったやつ」
花陽「気付いてたんだ」
にこ「当然。……でも別にいいじゃない、そんなこと」

ダイヤと、話してはいないけど残りの三年生……
　二年前何があって歌えなかったのか、そして復帰することになったのかわからないけど。
　復帰してからの三曲を見ているだけで……

にこ「大事なのは『今』でしょ？こんな楽しそうにスクールアイドルしてるんだから、それで十分よ」
花陽「『いま』が最高、だね」

Aqoursがどれだけ輝けるか……楽しみね。

絵里「にこ、花陽。凛がそろそろ花火やらないかって言ってるんだけど……と、スクールアイドルの話？」
にこ「そうよ、『わたくしは断然エリーチカ！』って絵里が大好きな子がいるグループ」
絵里「そんな言い方されたら気になるじゃない。後で私にも教えてよ？」

どうやら今日も、夜更かしすることになりそうだ……

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