先に飛んだバーガーたちは、100キロほど離れた砂漠で、発生した黒雲渦まく嵐を呆然と見つめていた。
バーガーもサクラも、もはやアルの無事を祈るしかなかった。
「小僧・・・」
「・・・生きてろよ、アル・・・」
と、かん高いノイズ音が響き彼らの前方の空間に光の玉が現れた。
光が消え、ザムザを抱えたアルフリードが放り出される。
ドサッ、とバーガーたちの目の前に落ちた。
「痛ってぇ…」
「アル!」「小僧!無事か!」
「何とか…」
アルの無事を確認し安堵した一同の目が、腕の中のザムザに移る。
「・・・」
意識を失っている彼の手足は、退化して非常に短く細かった。
左右対称ですらなく、左がやや短い。
指は4本ずつしかなかった。
「こいつが、敵の・・?」
「ええ。彼が率いる一小隊が、艦隊を手玉にとっていたんです」
「この体でどうやって操縦を?」
「体がコネクター状のもので期待と繋がっていました、おそらく脳波で直接」
「それで反応速度が異常に速かったのか」
「テレサの声をこいつも聞いているのは確かなのか?
・・アル。こいつに助ける価値はあるのか。あの残忍な敵の兵隊だろう。
俺たちと違って命の価値のわからない連中だぞ」
「・・・」
「何とか態勢を整えないとな・・クレイ、なんとか友軍と連絡が取れるか」
「通信システムを調整しませんと・・しばらくかかりますが、何とかやって見せますよ」
「ああ、頼むぜ」
バーガーに頼まれ、ニュートリノ通信システムを操作し始めたクレイだったが。
「・・・妙だな」
「どうした?」
「おかしなノイズが乗ってくるんです、数秒周期だ。だんだん強くなってくる」
「見て、車が近づいてくるわ」
「あれのせいか?この嵐の中を。まっすぐこっちに来る」
「俺たちを見つけている? 敵ならあんな大胆な近づき方はせんと思うが、一応総員警戒態勢・・」
バーガー言いかけた間に、まっすぐ車が目の前に来て止まった。
皆があっけに取られていると、女の子が降りてきた。手に女神像を携えている。
「あなた方はガミラスの…あの大きな敵と戦っておられたのですか。」
女の子は恐る恐る尋ねてきた。バーガーたちを警戒しているようだ。
「ああ、こっぴどくやられちまったが・・・お嬢ちゃん、どこから来たんだ?」
「そこの村…アセレットから来ました。エレノアと申します、修道女をしています」
エレノアは、まだ黙示録の新章預言を信じ切っているわけではなかった。
実質、村の責任者の立場ににいる彼女は、来訪者に対しては害をなす存在かどうか見定める必要があったからだ。
「そちらの方は…ガミラス人ではありませんね?」
エレノア、アルが抱きかかえているザムザを見ている。
「こいつは…敵兵だが訳ありなんだ。」
「あ…紫斑が」
「うう・・・」
「!」
ザムザの顔に紫色の斑点が急に見え始めた。
「いけない、風土病ウイルスの急性症状だわ」
「なんだって・・・奴ら兵隊に免疫抗体も接種せずに派遣してやがったのか」
「…俺は、ただの使い捨てだ…戦闘薬を投与され、自分の意思と関係なく戦いの中に放り込まれた。
そうやって何の因果か、今まで生き延びてきたんだ」
目覚めたザムザが、苦しい息の下から呻くように独白する。
「使い捨てにワクチンなんか打つわけもなし…それに、今まで敵を山ほど殺してきたであろうことを考えれば…
ここで…死ぬのが…」
ここまで聞いて、アルはザムザを怒鳴りつける。
「馬鹿野郎!」
「!」
「お前、オレの手を掴んだだろ。」
「俺の呼びかけに答えただろ。生きたいんだろ。生き続けたくてこの手を取ったんだろ。
こんな細い指で、あざが残るほど握り返してきやがって。
お前には、生きたいという意思がある。死を恐れる心がある。
お前の居るべき場所は、戦闘機のコクピットじゃないんだ!
たとえテレサの声を聞いていなくても、俺は…。」
アルはアームカバーを空けて、注射器を取り出した。
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