ごとん・・・。
つい一週間前か。どっかで見た事あるような気がする馬鹿でかい剣が一つ置かれてた。どっかでみたのは覚えてるが、何処で見たのか思い出せない。箪笥の中にある札遊びの類か、それとも得体のしれない供物の一つか。はたまた、供養に出せと頼まれた訳ありなのか。けど、問題はコレ・・・。
誰が持ってきたんだ?少なく見積もっても3尺前後、それに幅も半尺はある。確かに此処じゃ長物の一つぐらいは持ち合わせてる連中も少なくねえが、にしたって目立つ事には変わりはねえ。写真を数枚撮って、それを手掛かりに今は無き社の影を見に行こうかと外へ出たら何やら声がする。思わず声のする方へ向かうと声に混じって何やら鳴子のような木々のような音とも金属製の食器がぶつかる様な独特な音が聞こえ始める。笑い声と共にかたかた・・・とも、かんかん・・・とも聞こえる音。
「・・・もしやとは思うが、此処にも居るのか?」
遷宮して2年と半年、普段の遊びに行く道とは違えど、確かに山や川が比較的近くにあるのは間違いでもない。となれば・・・。
そう思ったのも束の間、白樺のような白く、風すら抜けるほど細い身体を持った陽気で脆い存在が此処にもしっかりと居た。その一体がこっちに気付いたのか知らぬが、
「よお、お前も棄てられたのか?」
と声を掛けて来た。何か少し不思議な気分がしたので
「向こうの川から来たんだけど、あまり変わらんな?」
と言い返した。そしたら、連中の話声が小声になってしまった。ただ、「向こうってあの川か。」「距離あるだろ?」「流された連中が化けてるのか?」「分からん。ただ、あそこも俺らみてぇなの居るらしいのは聞いたことある。」と何やら断片的には聞こえてくる。面白がって「新入りに聞いてみりゃ何かわかるんじゃねえか?」と言ってみた。そしたら髑髏の一体が何かに気付いたのか。「もしやと思えば神主さんかい!」と声を掛けて来てくれた。巻き上げちまった可能性がある以上、バレるとヤバいんだけどなあ・・・。
「そうだよ、鉄火場の黒羽織さ。そういうてめぇは?」
「種火すらない跡地に行っちまった。そしたら、なんだ妙な連中に追われてたんだってなあ。」
「で、何人連れてったんだよ。」
「3人かな・・・いや、一人は間違いなくやったよ。」
「上出来だ。・・・で、何でこっちに居るんだよ。」
「兄貴に頼んで連れてきてもらった。」
「なるほど・・・。あ、そういやここ最近で変わった事ねえか?あー、新入りが増えたとかは良いんだけど、何つうか・・・目立つような事とかって。」
「ここ3年ぐらい変な事ばっかりさ。」
本題聞いたら、俺のせいかよと思うぐらいの言われようだ・・・。遷宮する前から珍妙なの集まってたから仕方ねえといやそれまでだが・・・。
「いや、ホント最近で良い。3年も経つと肉のある連中にしてみりゃ昔話だ。」
「嘘言え、兄ちゃんだってあと10年もすりゃ5年前の事を昨日あったことみてぇに言い始めんぞ。」
「いや・・・まあ、確かにそうだが・・・。」
「ああ、でも変な奴を見たなあ。」
「変な奴・・・?どんなのだ。」
「青いあれ・・・なんだろうなあ。熊みてえな感じだけど2足で歩いてるし・・・恐竜?かなあ。なんか変なのが妙な剣持って歩ってたんだよな・・・。」
「あれ?いや、俺見たのは阿修羅みてえな奴だ。」
「そういや、何か青い獅子みてえなのも持ってたろ?」
「あー・・・同じの持ってた!」
・・・何か当たりっぽいな。
「もしやとは・・・思うんだが。これがそうかい?」
念の為に撮っておいた写真を見せたら、喰らいつくように眺めては頷いて、色は覚えてねえだの阿修羅のは杖持ってただの言ってたが概ね当たりみたいだ。
「やっぱそうか・・・。いや、何故かウチに一本届いてさ・・・。心当たりが無いか?って探してたんだ。」
良かった・・・これで帰れる。と思ったら、首を傾げた奴が居る。何かおかしなことがあるらしい。
「へえ・・・あれ?でも変だなあ。」
「変?一体何が変なんだい?」
「いや、俺さ・・・青獅子の後を付けたことあるんだよ。下手すりゃ犬の玩具になるかもしれねえとは思ってたけど、アイツら何を考えてるんだって気になって仕方なくてさ。」
「ほう・・・それで。」
「そしたら、金の阿修羅と其れと・・・青い機械が同じモン持ってるんだよ。もし、全員が別の日にしか出ないならとやかく、同じ所に同じのが3本。で、社にもあるってなんかこう・・・さ。」
「いや、言いたい事は分かる。つーことは、あれ4本目ってことだろ・・・。で、そいつら何で集まってた?」
「それが分からん。だが、黒い鎧がおいてある場所に集まってたんだ。何かおぞましいような・・・。」
髑髏の一体が思わず「おい、そんなんあったか?」と聞いたら彼は
「それが、気になって翌朝に同じ場所行ったけどねえんだよ。悪夢の類じゃねえか?って思ってたけどさ。」
と言い返した。不可解だが気にもなる。
「おい、ちょいと・・・その場所に案内してくれ。」
そう言って彼に伝えて行きつく場所は木々を切り拓いて作ったような広い場。けれどそれ以外は何も無い。
「碑も土台も無しか・・・。うーむ・・・。」
「まさか信じて無いんじゃ・・・?」
「いや、目印がねえから困ってる。」
「目印?・・・それなら、良いモンあるぜ。ちょいと待っててくれねえか。」
「ああ、わかった。」
・・・何か嫌な予感がするなあ。小声で「デュラハンの野郎が持ってた筈だ」とか言い始めてる。何か絶対訳のある奴だろ・・・。と思ってたら、やっぱり紐持ってきたよコイツ・・・。
「いやあ・・・デュラハン居ねえから自前で持ってきたよ。」
「何でお前さん持ってたんだ?」
「まあ、この近所で労災ってトコか。」
「なら出てくるのは虎ロープか・・・。」
「それも未開封品がちょいとあってね。じゃ、巻き付けて・・・さっきの場所まで戻るか。」
「一応、他にも結び目作っておくといいな。切られる可能性は否定出来ねえ。」
「まあ、連中は言うほど用心深いってわけでもねえけどな。でも、何で印付けようって?」
「忘れ物を取りに・・・ってとこかな。」
「それは大変だ。だったら、後でライト巻いとくよ。」
「助かる・・・。10日ぐらい巻いといてくれ。」
「あいよっと。」
この時は普通に戻ってきた。で、その3日後にその忘れ物持ってったのは覚えてるんだが・・・いや、同じ剣を持った連中に歓迎されたのは覚えてるが、あの後どうしたっけかなあ。確かあの鎧はデカいから持ち帰れねえって言ったのは覚えてるが・・・。
「すいませーん、宅急便ですー。」
「あ・・・はい。」
身に覚えのない宅急便には寒気がしたが荷物って程じゃなさそうだ。
「此処で大丈夫ですね?」
「ええ。・・・えっと、依頼主はどなたです?」
「此方の方です。・・・身に覚えは?」
見たら、知ってる着物屋。そういや夏羽織を修繕に出してたんだっけか。
「いや、思い出した思い出した。すっかり忘れてた。」
慌てて鯱旗を取り出して伝票に捺した。けど、ふと見直してみると商品は「修繕夏用羽織1着+夏・冬羽織セット1の合計三着」と書いてある。間違いかと思って中身を確認したら寄せ書きが記されている。
「この度は当社のご利用を誠にありがとうございます。今回は修繕のみという事で修繕を施しましたが、当社の製品であれば改良を施した製品への変更も行っております。しかし、羽織に関しては長く御愛顧される都合として新規に購入される方は少なく、利用される方も限られております。ですので、改良後の製品を1セット付けておきました。着用して気に入っていただければ贈呈、そうでなければ返品という形で対応しております。今後とも御贔屓の事宜しくお願いいたします。」
・・・ふーむ。長らく使ってない間に何かあったのだろうか。修繕した羽織はとりあえず管理するとしても
問題のこの羽織・・・。ふーむ・・・そう思って広げてみたら中々に悪くない。黒と青の・・・グラデーションみたいになってて、裏地は濃い目の紫。で、金の月に松。松に乗った雪が銀が施されてる。今着てるのも良いが、これも悪くないじゃないか。それに紋付のような施しで星模様か・・・。良いねえ。あとは木興ごちだけだ。
そう思って羽織ったら冬用と思えない位に軽い。夏用かと思ったけど軽いなコレ・・・。ああ、何かでこれ使おうかな・・・。
まあ、何にしても良い頂き物を送ってもらったので、感謝の意味を込めて着物屋に連絡を送ったら、改良を施したのは違いないが羽織まで送ってないとのことだった。心配だったので、着物屋に例の着物を確認させたら「ウチと同じ加工だ・・・。」と関心してた。
鎧じゃ使ってくれねえって思ったんだろうなあ。