「・・・ふう。1年じゃ付喪神は無理かねえ。」
重たい鞄に入ってる匣には外側こそ傷だらけだが、管理された物の数々。どういう順番で使ってたのかは分からないが、使用順と考えれば何処か納得する。
「・・・まあ、無理だろうな。」
「やっぱりなあ・・・。」
彼にしてみれば少し辛いだろうが、付喪神なんざ簡単に憑くわけじゃない。それに此処の神社は他の寺社に比べたら大した月日が経ってるわけでもない。そんな所で付喪神が来るとは思ってない。
「といっても、簡単に手放せないんだろ?」
「ああ。今日まで色々と戦略を立ててさ?その度に匣の中身を変えてさ・・・最初は小さいモンだったんだぜ?それが、何を間違えたのか匣も大きくなってさ。それすら入らなくなって採用から見送ったのとかだいぶあったんだぜ?」
実際、彼の持ってる匣の重さからも想像は難しくは無かった。札1枚とっても無限に話が広がりそうだ。
「・・・大方、「同じ戦術が一つもない」から増えた。とででもいう気か?」
「少し違う。同じ戦術でも組み合わせが無限だった。それこそ対戦形式が違うと採用しづらいカードとか出てきて、それを他の何かと変えなきゃならなくてさ。」
「・・・気が遠くなるな。」
「1年弱なのに長く感じたよ。たった1年、勧めてくれた友人にボコボコにされて手段を問わず勝ちに行くと決めた何時ぞやから・・・今日まで。」
そういえば、此処に記さなかったが、あの後も色々と対戦はしてたらしい。ただ、聞くたびに何か使ってたカードが違うってのは不思議だったが、彼なりに色々とやってたんだろうなあ。
「・・・で、今日は今まで振り返る為だけに来たって事で良いのか?」
「まあ、それもある。ただ・・・こういう場所だったらコイツ等に言葉の一つも伝えられるかなって。」
色々とあったんだろうなあ。それこそやれることを全部試したんだろう。いや、試し切れなかったんだろうか?何れにしたって、此処にあるのは箔押しされた単なる紙ではない。
「・・・何処だって言葉は伝えられる。何時だって。」
「そういうもんかね?」
「ああ、そうとも。共に戦った戦士達であろう?」
「ホント、拙い指揮に良く合わせてくれた。」
「そういうこった。」
「・・・近々、ファイルに綴じようと思う。その時は・・・。」
「・・・言うな。黙って普段通り持って来て語れば良いじゃねえか。」
「そうする。菓子と安い茶の一つぐらいは持ってく。」
「あいよ。」
「・・・じゃ、ちょっとの間、神様の御膝元で休ませてやってくんねえか。」
彼は共にしてきた戦士達を預けて去っていった。
「・・・しかし、こんなんがねえ。」
姿を見えなくなってから、しばらくして匣を開いた。其処には多くの者がいたが、私の目に映った彼等の言葉は
「これが最後の頼みだ!」
であった。
馬鹿な指揮官よ、付喪神の願いを不意にはするな。