「・・・此処に頼むのも無くも無かったか。」
数多の出逢いがあれば、別れというのは必ず起きる。分かりきった話ではあるのだが、それを受け入れられるかどうかなんて言われると流石に難しい。この街に暇潰しで来ているせいで感覚が麻痺していたのもあったが、命には終わりというのが存在する事。何かを教わるには遅すぎたとしか言えない事というのはどっかで存在するようになっている。
「・・・よう、時化た面してどうしたよ。」
「ちょいと難しい間柄の人間が亡くなった。」
「どうりで線香の匂いが染みついてるわけだ。」
そうとしかいえない。まあ、少なくとも言葉にすれば単純な言葉で片付くモンだが、その一言で片付けるにはちょっとばかり遅すぎた。長命を願ったのは僕等なのは間違いないが、流石に亡くなってから思う所が「ずいぶんと遺してくれたな」という嫌味の一つってのは流石に何か自分でも性格が悪い。
「・・・で、何処まで片付いた。」
「一通りは終わったよ。・・・ルーツ的にはアンタに頼むのも正解だったかもしれんがな。」
「なんだ、神道だったのか?」
「・・・一応だよ。とはいえ、70年ぐらい前に次男に押し付けて家を出てった身の上ともね。だから、葬儀は兄弟に合わせなくていいよって言ってたらしい。」
「・・・で、付いたのは戒名か。」
「そういうこった。・・・そういや、神道だとそういうのってあるのか?」
「謚(おくりな)の事か?」
「・・・やっぱりあるんだ。」
「まあ、知名度はあまり無いけどな。それより、時化た面して来たって事はまだ、何か見切りついてねえって言いたそうだなあ?え?」
普段は、煙草銜えて空ばかり仰ぎ、他人の事なぞ己には関係ないって面ァしてるのに、こういう時だけは勘の鋭い黒羽織には本当に嫌になる。実際、見切りを付けろと言われても、無理なモンは無理。忘れた頃に部屋の戸を開いても多分だが、声が聞こえちまいそうな気がしてならない。
「・・・当たりだよ。」
「ま、話ぐらいは聞いてやるよ。」
「けっ、随分な言い草だ。」
「なんだよ、じゃあ何で宮司を訪ねた?」
「揶揄いに来ただけだ。」
「はぁ?」
遺影を探す写真には色々と苦労した。遺らない苦労というのは数知れずとは言うが、世の中には多く遺る事で苦労するというのもある事は流石に分かりもしなかった。おかげで、まあ幾度か「そっちじゃない」とか
「それはそこだ」みたいに死人の声がハッキリと聞こえてくる。声ぐらい掛けれるなら、少し戯言に付き合えよと嘆きたくもなる。ああ、身体ねぇ奴に対しても何だか腹が立って仕方がない。
「・・・だったら、書いてけ。」
「また手記サボる気か。」
「宮司を揶揄う罰当たりな奴には丁度良いさ。」
「・・・なんだよそれ」
「それでも軽い方だぜ。」
「あー、はいはい。やりゃあいいんでしょうが。」
この上に、余計な事をさせられたのも何か納得が行かない。ただ、こうして書くと思う所が増える一方で良い事はあまりない事だけが分かった。
ただ、聞こえてくれるなら思う所は幾つかある。
「暫くは昔に亡くなった愛犬と仲良くやってくれ。」
「それに飽きたら蓮の華しかないが、写してくれ。」
「それに飽きたら弟君とゆっくり話してくれたまえ。」
「出来ればそれらの行いは永くやってくれ。」
・・・ぐらいだろうか。あ、そうだ。一番伝えなきゃいけないのが一個あった。
「仲間が欲しいってのは分からんでもないが、甥の真似事はするな。」
って事だ。・・・好奇心だけは衰えしらずの人だ。出来る限り向こうの事、沢山撮ってくれよ。本当に忘れた頃に沢山話してくれ・・・。