「後の祭り・・・というわけでもなさそうだ。」
二月も前には空蝉が転がり、陽が落ちる事も知らず、黒い空も気付けば群青にも近い青空に逆戻り。白い光が影すら灼く程だったというのに気付けば、転がる亡骸に落ち行く天道。全てを灼く程の光は余熱を残して消えていった。されど音だけは未だに一月前のらしさのまま。そろそろ黒鉄に爆ぜる油のような音には飽いた。そろそろ奏者達が夜を彩るようになる筈なのだが・・・おや?
・・・なんだ、調律の最中だったか。とはいえ、言われなければ気付けない程で、最初はモーターの動きが悪くなったのかと思ってしまったぐらい。とはいえ、お月様の下で黒衣を纏った踊り手が空を舞うには寂しく、途切れる合間合間で石の上で長く居たのか灰交じりの雨蛙が拍手みたいな鳴き声で出迎える音がする。
話は変わるが、前に空を飛ぶのが趣味の紳士が育児をしていた。そろそろ肌寒くなってくる季節なので、子供たちが大きくなったら家族総出でご旅行だと言ってたっけか。南方とは言っていたけど、どこだか聞くのは忘れちまったし、なんなら家も戻ってきたら使っても良いと言ってたぐらいには大雑把だった。こりゃ土産話は無理そうだな・・・。
なんてことを思いながら、何時ぞやの喫煙所に立ち寄ったら冷たかったアイツは「珈琲買うぐらいなら此処じゃなくていい」なんて捨て台詞を吐く事も無く居なくなってた。居れば御の字とはいえ、尻尾の生えた隣人も隠れ家にでも居るのか今日は誰も居ない。
温い風に吹かれて煙草の煙が目に沁みる、そんな日だった。