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【冒頭抜粋】
僕がその転校生の異常に気付いたのは、彼女が転校してきた初日のことだった。
転校生、書架沢栞。
真っ黒いロングヘアーを腰まで伸ばし、それを赤いリボンでゆるく束ねた物静かな女子。ちなみに、色白で眼鏡がよく似合う。
このいかにも文学少女然とした口数の少ない女学生は、一週間前にこの学園――樹学園にやってきた。
「『書架沢栞』。『生年月日、平成二十六年』」
黒板の前に立った書架沢栞は、それだけ言うとぺこりと頭を下げた。自動音声読み上げのような印象を受ける声だった。
いわゆる、棒読み。それでも声のか細さや、身体の線の華奢さは僕たち中学二年男子連中をざわざわと落ち着かない気持ちにさせるには十分だった。
樹学園では、初等科から高等科まで毎学期生徒が入れ替わるといっても過言ではないけれど、転校生というのはやはりミステリアスで興味と興奮を誘発する存在である。
「えっと、それじゃあ書架沢さんは出席番号が一四番ね。そうするというと……ああ、席は澁澤君の隣です」
担任の剣岳先生は、僕の隣の席を指差して微笑んだ。
まだ若い、ジャージ姿も眩しい剣岳先生は担任として初めて迎える転校生をどう扱っていいのか図りかねているようだった。
教師にとっても転校生というのはまったくのダークマターであって、その存在がクラスにとって吉と出るのか凶と出るのか、あるいはまったくの平々凡々とした一部になるのか読めない分、接し方は自然とソフトになるのだろう。
僕の経験上は、圧倒的に平々凡々タイプに落ち着くことが多いのだけれど、それでも転校生の自己紹介というのはなんとなく、その先の学校生活を占う儀式のようにも感じられる。
ただ、学期初めの転校生ということもあり、生徒たちにとっては顔を合わせたこともない同学年の人間と今回はたまたま同じクラスになった、くらいの印象だ。
書架沢は何の感動もない表情でクラスを見渡し、そして僕の隣の座席に着いた。
「よろしく」