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> 尊敬的エルム
> 尊敬的キタカミ@鍾馗斎
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> 尊敬的エルム
ゴォ…ォォ…ザザザ…ォォォ…高度はさほど高くない。
かすかに聞こえるのは風の音なのか、それとも飛行機か…彼女には分からなかった。
「この時期になると、晩夏の足音が聞こえてきますね。
水田のカエル、収まりゆく蝉時雨、濃緑の盛りを終える木々…自然だけはいつの時代も変わらず。
早いもので、あれから77年…あの空も時代(とき)も遠くなりにけり。
皆さんが守らんとした“ふるさとの風景”と“人のいとなみ”は、後世でも続いています…ずっと、ずっと。
だから…安心して下さい。」
延々と伸びていた飛行機雲がやがて山の稜線の向こうへ消え、残された航跡も徐々に風によって散らされていく。
「夏が過ぎ、風あざみ…晩夏の空に残された心は…」
ふと感傷的になり、鎮守府のラジオで聞いたフレーズが口をつく。
墓地の方角から風が吹き、我に返る。
直後、呉湾の海岸付近が騒がしくなり、一筋の光が白煙を引いて駆け上がっていった。
ヒュルルル…ドンッ!
「花火……」
そうだ、今夜は呉の花火大会があるのだった。
納涼のためだけではない…本来の目的は先祖の霊を慰め弔う事にある、だから盆の時期に行われるのだ。
「鳳翔さーん!! どこに行っ…あ、いたっ!!
今夜は花火大会があるから、鎮守府のみんなで繰り出そうって言ったじゃないですか。
お墓参りはほどほどにしておかないと、遅れちゃいますよ!?」
蒼い髪をツーサイドアップにした少女…蒼龍が言う。
彼女は緑の浴衣を着ており、既に夏祭りのスタイルだ。
「すっかり忘れておりました^^;
でも…この時間ですと、どこへ行っても人混みがすごくて見れないでしょう?
でしたら、この高台に皆さん集まりませんか?」
「名案っ!! たしかに穴場ですよねっ♪
待って待って…私ら大型艦はともかく、もう駆逐艦の子達は出掛け始めちゃってるハズ。ちょっと呼んできますっ!!」
そう叫んで蒼龍は石段を駆け下りて行く。
後ろ姿を微笑みながら見つめていた鳳翔は振り返り、そこに花火を眺めるいくつもの幻を見た。
「・・・ッ!!」
今日は77年目の8月15日。