アメフトのホームグランドとは真逆のキャンパスの一番端に、英二の練習するフィールドがある。
アッシュは、着替えもせず英二の練習を見に行く。
ちょうど英二は飛び終えてマットから降りるところだった。
息を切らせたアッシュは、早速チアで鍛えた笑顔と声量で英二を呼ぼうとした。
「英二……っ」
「英二君、お疲れ様」
「あ、ありがとう」
英二と同じ黒髪の東洋系の女子生徒がタオルとドリンクを差し出していた。
英二は首を少し傾けながら照れたように受け取る。
アッシュは暫く談笑しながらベンチへ向かう二人を目で追った。
立ちすくむアッシュに気づいた英二は、「アッシュ!」と子犬のような黒目を大きくして手を振った。
アッシュは、微妙な笑顔を張り付けて二人に近づく。
「やあ、こんにちは」
「あ、アッシュさん。こんにちは、じゃあ、奥村君頑張ってね」
楚々っと離れていく小柄な女の子を見送ってアッシュはため息をついた。
「アッシュもお疲れ様。まだ練習あるの?」
チアリーディングの姿でいるアッシュに英二は目を細めた。
「今日は終わった……英二の飛んでる姿見たかったからそのまま来た」
「そうなんだ。えへへ、じゃあ片づけてくるから一緒に帰ろうか」
アッシュはちょっと拗ねたような声を出すが、英二はアッシュの言葉に嬉しそうに照れている。
先ほどの女の子と英二の釣り合いの取れた身長差にアッシュは少しだけ嫉妬する。
目の前の英二の照れた顔はどう考えても自分より下にある。
上目遣いで見上げてくる英二が可愛くて仕方ない。
逆に俺は、英二から見たらいつも上から偉そうに見下ろしている絵面だというのか。
迫力ありすぎるだろう!
「あの子、良く来るな」
「あ、棒高跳び好きなんだって」
「それだけじゃないだろうが」
「んん?」
「英二はああいう清楚な黒髪スレンダーが好きなんじゃないのか!
俺みたいないかにも豊満で頭の悪そうなブロンドチアリーダーなんかを連れて歩いたら本当は恥ずかしいと思ってないか?」
「アッシュ?? 君のスタイルの良さは完璧だよ?? それに君スキップして僕よりも上のクラスの授業をとっているよねw」
「俺の事陰で皆なんて言ってるか知っている。学園の男を軒並み食っちまってる最強のビッチだって!」
「アッシュ~、何言ってんの。そんなの聞いたことないって」
「英二と俺のいる世界が違うから、英二の周りにはそんな下品な事言うやつがいないだけだ」
英二は拗ねるアッシュの白い手をそっと握る。
アッシュははっとして英二を見た。
「馬鹿だね。君はなにもかも最高だよ。僕なんかが側にいてもいいのかなっていつも緊張しちゃう」
「ダーリン……」
アッシュはたまらず少しかがんで目の前の英二の唇にキスをする。
「もう~、アッシュ校内だからダメだよ」
「ごめん、我慢できない。英二早く帰ろうぜ。こんなところでもたもたしてないで、今日は親いないから家に来い。車でぶっ飛ばせば二十分だ!」
「え? 車?」
「バスだとオーサーが付きまとってくるからな。さあ行くぞ」
「あ、だから片づけが」
「おいっ! そこのお前! 英二は急用があるから、お前代わりにやっておけよ」
「は、はいっ!」
「あ、着替えが」
「家に着替えがあるから。今日はお互いこのままの姿でやろうぜ。お前の汗のにおい好きなんだ」
「えええ~、僕そういうのはちょっと……」
「うるせえ、行くぞ」
「ああ、なんかスイッチ入ってる」
引きずられていく英二を部員やその他のギャラリーは、羨ましいのか同情すべきなのか分からず、口を挟まず見送った。
ああいう切り替えの早さが噂の元だと思うが、怖くて言えない。
どうみても女豹なのに、英二の前だけでは子猫になるアッシュは、確かにビッチであるが、そこが可愛いと皆思っている。
一段高くなった、敷地の校舎の陰に絹のような黒髪を垂らした人形のように美しいオリエンタルビューティーが気配を殺して佇んでいる。
「アッシュリンクス……運動部の花形を渡り歩いて、骨抜きにするビッチめ。エイジオクムラは、なかなか有望な選手だろう。
大事な試合前にあんなことされては、成績不振に繋がる。学園の成果の足を引っ張る存在だ。どうにかぎゃふんと言わせて少しは大人しくしてもらわないと」
「ユーシス様、いかがなさいます」
「僕が動く。あの最強ビッチには、僕のようなプロでないと相手は務まらないだろう。ふふ、見ているがいい、
奥村英二を骨抜きにしてあいつのプライドをへし折ってやる」
演出が古臭いのは勘弁してくださいw
英ちゃんはヒロイン体質の攻めでいいんです。支離滅裂でいいんですw