「ブランカ……俺、もうすぐ18になるし、結婚して子供を産んだっておかしくないよな」
「生物学的にか。法律的にか。校則的には大問題だ。まあ、やろうと思えば出来るが、一番の問題は、なぜ学園の保険医の俺に聞いてくるのかと言うことだな」
「あんた、いろいろ経験してそうだし、ただの保険医じゃないの知ってるぜ。あいつの息がかかったスパイみたいなもんだろう」
「あいつとは?」
「しらばっくれんなよ。あのタコ坊主と、それとうっとうしいゴミのような生徒会長もぐるだろう」
「ゴミとは……あの方が聞いたらさぞご立腹されるでしょうね。それなのに、なぜ、俺に相談する?」
「子供が出来て、俺が名実ともに英二のものになれば、もうあいつらと手を切れる。英二を永遠に俺一人に縛ることが出来る」
「妊娠が手段か。お前らしくない。奥村君は、そういうのを嫌いそうだが」
「――だから断られた」
「相手の同意がなくても、その気ならいくらでも仕込めるだろう」
「ばかやろ。安全日偽るとか、ゴムに穴開けるとか、それじゃあ意味ないんだよ。あいつに求められないと……」
「そこまで分かってるなら私に言うべきでなく彼と良く話し合うしかないな」
「……その言い方――俺たちの仲を認めたな。今の録音したぜ。タコ坊主にバラされたくなかったら、俺の事を見張っているやつらの牽制頼むぞ。
やつは、卒業してなんの取引もなくなっても付きまとってきそうで困る」
アッシュが、それだけ言い捨てると来たのと同じようにまた唐突に出ていった。
それを苦笑しながら見送ったブランカは、そっと後ろもカーテンに声をかける。
「若様。聞いてましたか?」
「バカな女だ。既成事実を狙ってるのか。そこまで考えるとは、よほど煮詰まってるんだな」
ユーシスが、ブランカの背中からそっと抱き着く。
ブランカはされるがままにしている。
「もう、彼らの事は放っておいてもいいのでは? あなたはそんなに美しく完璧なのに、唯一の弱点は、嫉妬が深すぎることですね」
「理事長が、あいつに手を出さないでいる時点で、許せない。そこまで大事にされているのが。僕が理事長に何されたか知っているだろう。
同じように近づかれたのに、あいつは傷ついたふりして、奥村英二という恋人に大事にされて癒されている。僕と何が違うというのか。あんな恥知らずな事考える女なのに。全く笑える。奥村英二にこの事を知らせて、ドン引きさせてやる」
ブランカは、高校一年で生徒会長にまでなった教え子の動機が、愛されたいものに愛されずに来た可哀そうな子供の言い分であることに不憫に思いつつもさて、どこまで動いたらこの子は満足して、そして自分の過ちに気づくかと静観している。
そこまで付き合う程度に、ブランカはユーシスを愛してはいるが、ゆっくりと本人に任せて最後の崖から落ちる寸前で抱きとめる覚悟でいる。
ブランカが意外にも本気であることにユーシスは気づかない。
「ブランカ先生。17歳で子供を産んでも体に支障はないんでしょうか?」
「最近似たような事を聞かれたが、なぜ皆私のところへくる?」
「先生、なんでも知ってそうだから」
「誰かを妊娠させたか?」
「とんでもないです! ただ、ある人から僕の彼女が僕との子供を作ろうと狙ってると聞かされて」
「それで嫌気がさしたとか?」
「違います! 僕は結婚するなら彼女しかいないと思ってます。それなのに、彼女は、僕のを信じきれてないようで焦ってるみたいで、
その原因を僕が取り除いて上げられればいいんだけど、僕はもう卒業するし、ここに彼女一人残しておくのが心配で……」
英二はブランカをきっと睨むと、頭を下げた。
「僕はアッシュを愛しています。誰よりも。だからブランカ先生! 彼女を卒業まで守ってやってほしいんです。
彼女が卒業したら、僕は結婚を申し込むつもりです。早くに両親を喪った彼女を僕が幸せにしてあげたいんです」
「私に言う前に、そこまで決まってるなら、彼女にそういえばいい。二人の問題だ」
「ええ、そうですね、ありがとうございます。僕には彼女しかいないんです。きっと彼女にも……ブランカ先生よろしくお願いします」
英二は、念を押すようにしっかりと目を合わせた後お辞儀をして出て行った。
奥村英二は、事情を把握している。
それを匂わせて、くぎを刺しにきたのか。なかなかやるなとブランカは少し見直す。
久しぶりの二人きりの夜。
グリフが出張中のアッシュの家で、英二が作ったドライカレーを夕飯に食べて、いつも通りに一緒にお風呂に入り、ベッドに移動した。
「英二、今日はいっぱいしてほしいんだ。もう子供が欲しいなんて言わないから」
英二は、アッシュをそっと包んで背を撫でた。
お互い座っていると抱きしめるのにちょうどいい。
「僕は、アッシュとちゃんと結婚式してハネムーンに行って、そこでアッシュを抱きたいなって思ってるんだ」
アッシュは英二の肩に額をつけて目を合わせない。
「英二。ごめん。嫌われたくないのに、変な事ばっかりお前に言って。ちゃんと待ってるから、呆れないでくれ。俺、やっぱり少しおかしくなってんだ」
落ち込む声を出すアッシュの肩をそっと押して、綺麗にマニュキアを施した左手を取ると、小さな緑色の石の付いた指輪を細い薬指にはめた。
「え?」
「ごめんね。高いものじゃないんだけど……いつかもっといいものをあげるからね」
じっと自分の手と英二を交互に見て、アッシュは口をきかない。
「君が高校を卒業したら――アッシュ、僕と結婚してください。ずっと一緒にいたい」
呆然とするアッシュに、英二は頬にキスをして、目を合わせて照れたように微笑んだ。
「大好きなアッシュにこんなに可愛くせまられて、僕も我慢できない。早く君と本当に一つになりたい。なんとか耐えるけどそれも卒業までしかもたない。お願い……返事は?」
全体の意味がやっと実感出来たアッシュはきゅっと涙ぐんで、yes, yesとアッシュは英二に抱き着いてベッドに押し倒した。
「はあ……もっとして。何度でもして。気持ちいいから」
「うん、すごく気持ちいい……」
スプリングが軋む音もアクセントになり、そのリズムをカウントするように英二の動きも早まる。
英二の下でアッシュは硬直して動きが止まった。
「はあっ、はあ……っ、ん、止めないで……このままして」
アッシュは、英二の背に縋り付いてしびれた下半身を押し付ける。
「待って、ゴム替えるから」
アッシュは、ずるりとベッドに沈み込んで英二をうるんだ目で見あげている。
その豊かな胸は、まだ激しく波打っている。
「大好き、アッシュ」
英二が再びアッシュ中へ入ると、アッシュは、美しい眉根を歪ませながら幸せそうに頬を緩めた。
「英二、愛してる。愛してる、どこにもやらないで」
もちろんだよと囁いて、何度目かの絶頂へ向かう時に、付き合って一年目にして、英二は初めての言葉を口にした。
「愛してるよ、アッシュ……」
英二の言葉にアッシュは、顔を真っ赤にして、ひときわ高い嬌声をあげると、そのまま英二の腕の中で意識を飛ばした。
> miさん
ていうか、男知らないアッシュ・リンクスなんてアッシュ・リンクスじゃない気もしますがw