「ちっくしょう・・こうなったら!」
アルは機体のゲシュタムシールドの残りを前方に全力展開させた。
ビームの嵐の中を全力でザムザ機に向け突撃していく。
「急所には当てないように…」
シールドが減衰し、ついに掻き消える。
光弾の乱打が容赦なく見舞う。
『バキバキバキバキ…』
翼がもがれ窓が破れる。
「もう、一息…と ど けーーーー!!!」
ついにアルの機体はザムザ機のバイタルパートからわずか外れた場所に突き刺さった。
脱出装置が働く。
「・・・!」
計算通り、ザムザ機の風防が飛びコクピットがむき出しになっている。
「くっそ・・・」
スラスターを制御して落下するザムザ機に近づき、とりつく。
コクピットに這いより、のぞき込む。
ビシッ。
「ぐあっ!」
中から銃撃、ヘルメットが壊れる。頬から鮮血が飛ぶ。
「!!!!!」
中から喚き散らす声、当然知らない言語なので意味は分からない。
アルは彼の銃を掴むと、持っていた自身の言語解読器を彼の手首に押し付けた。
手首…といってもガミラス人のものより遥かに細く、握ると折れてしまいそうだ。
「やい!聞こえるか!俺はお前を殺しに来たんじゃねえ!」
ザムザの動きが止まる。ガミラス語を彼の脳のフォーマットに逆変換して伝えたのだ。
どうやら通じそうだ。
アルは最後の力を振り絞り、祈りながら叫んだ。
「貴様、テレサの声を聴いたんだろ!生きたいんだろ!だったら心を開け!この手を取れ!!!」
「!!」
ザムザは目を完全に覚ました。
がっちりとアルの手を掴む。
周囲が明るくなる。
「ああ…」
上空の雲が急に晴れた。いや、ナノブラックホール弾が雲を切り裂いたのだ。
黒い塊が炎をまとって近づいてくる・・落ちてくる!
双方機体が大破した二人には、もう避ける方法がない。
「テレサーーーっ!!!」
アルの叫びを、黒い炸裂がかき消した。
二人の直近で爆裂が起こり地形が球形にえぐられる。
ブラックホールのホーキング放射で樹木が瞬時に猛炎に包まれる。
丸く膨れ上がった炎は、直後に一気に収縮した。
特異点が大気もろとも周囲の空間を飲み込んでいく。
竜巻が幾つも巻き起こる。。
二人のいた空間、墜落した艦隊、全てを飲み込んで、ナノブラックホールは蒸発して消えた。
荒れ狂う低気圧を残して。